十月二十二日(火) -4-
「で、どの辺りにルーズリーフをしまってたの?」
「レポート用紙の下、ノートとの間だよ。ビニールに入れて」
「ふうむ、なるほど」
引き出しを閉めると、湯呑みを口に運んだ。
ずずっとはしたない音を立てる。
「リアル、なにか解った?」
「厄介ね。お手上げよ」
意外な一言にハチは目を丸くした。
「まず状況を整理してみるわね。犯人はハチが寝たのを確認して、部屋に入った。そしてデスクからルーズリーフを引っ張り出し、ご丁寧に一枚ずつメッセージを書いた。しかも慣れない左手で。その後、書き上げた紙を部屋中にくまなく敷き詰めると、寝室に移動。部屋の窓をこっそり十センチほど開けた」
リアルの説明にハチが頷く。
「犯人は何がしたかったのかな?」
「やっぱり警告じゃないかな。私達を事件から遠のけようとして。お前なんかいつでも殺せるぞ、っていうのを見せ付けたんだよ」
「こんな手の込んだ方法で? そんなの無意味よ。ベッドで寝ているアンタを起こして、脅すだけでも効果は十分でしょ」
「それはそうだけど」
「せこせこ警告文を書いて、のんびり床に紙を撒く。その間にアンタが起きてくる可能性もあるのに」
と、そこでリアルが言葉を止めた。
それから、ハチの顔をじっと見つめてくる。
「な、なに?」
「アンタ、昨日もあんまり眠れてないでしょ」
「う、うん。変な夢ばっかりみちゃって。何度も目が覚めて」
「変な物音とか聞かなかった?」
「ううん。なかったと思う」
「おかしいわね。これだけくまなく紙を撒くには、部屋中を動き回らないといけないはずなのに」
「私が気付かなかっただけかも」
「でも深夜、寝付けない状態でしょ。かなり神経は高ぶってたはずよ。それがまったく気付かないなんて」
「私が寝てる間に済ませたのかも」
「あれだけの紙に書くだけでも、かなりの時間が掛かったはずよ」
「そう言われると、そうだよね」
ハチが首を捻る。
「まあ、いいわ。仮にハチが極端に鈍くて気付かなかったとして」
「その言い方は酷いんじゃないかな」
苦笑するハチを無視してリアルが続ける。
「まだ謎はあるのよ。引き出しも整頓されたままだった。犯人はルーズリーフとペン以外には、触れた形跡がないの。つまり探さずに見つけたことになるわよね」
「偶然見つけたんじゃないかな。最初に三段目の引き出しを開けたからとか」
「じゃあ、どうしてルーズリーフを使ったんだろ」
「どういう意味?」
「ルーズリーフの上にはレポート用紙があったのよ。これを使っても一緒のはずなのに」
「千切るのが面倒だったからじゃないかな」
「そうね、その理由は正解だと思うわ」
ハチの指摘にリアルが同意を見せた。
「でも、そうなると一つ疑問が出てくるわ。犯人はレポート用紙より、使いやすいルーズリーフがあるのを知ってたことになる」
ハチが息を飲む。
リアルの指摘は的を射ていた。
「ここから導き出される犯人像は、ハチがどんな文具を使ってるか知っている人間。更にどこに何をしまっているか知っている人間。そして、ハチの生活リズムをある程度把握している人間。つまり」
「普段、私の近くにいる人……」
「親しい友人なら隙をみて、合鍵を準備したりできるかもね」
「た、確かに、友達には鍵を貸したこともあるけど。でも、そんなこと絶対にしないよ! だって友達だもん!」
「落ち着きなさいってば、誰もアンタの友達が犯人だなんて言ってないんだから」
リアルの冷静な声に、ハチが大きく息を吐いた。
少し落ち着きが戻る。
「でもね、今挙げた犯人像では割り切れない物が一つあるのよ」




