十月二十二日(火) -3-
中は意外と整頓されていた。
真ん中に円卓が一つとクッションが五つ。
壁際に七十センチくらいの収納チェストが二つと小ぶりな本棚。
隅に積み上げられたダンボールと、その上に大きなテディベア。
「ハチの性格とアタシの勘を信じて。ずばり奥の上から二段目」
チェストに手を掛けて開けた。
「ほら、大当たり」
淡い色の控え目なデザインの下着が、綺麗にたたまれて並んでいた。
何気なくブラを一枚手に取る。
「ん、Cカップ。となるとパットがどこかに」
「ちょちょちょちょっと! なにしてるの!」
お盆を提げて部屋に入ってきたハチが、半ば裏返った声を上げる。
「チェックよ」
「ちぇっくぅ?」
声が更に、完全に裏返った。
「あのね、ハチ」
そんなハチに落ち着いた声で諭すように告げる。
「下着は自分に合った物を選ばないとダメよ。女子ばっかのアカデミーで、小さな胸を大きく見せてもしょうがないんだから」
「大きなお世話だよ!」
真っ赤になって反論の声を上げた。
リアルにお盆を押し付けると、ブラを引っ手繰った。
「もう、信じられないよ」
ぶつぶつと繰り返しながら、チェストに戻す。
「しっかし、奇妙よね」
「奇妙じゃないよ。やっぱり胸は大きく見えて欲しいもん」
「いや、そっちの話じゃなくてね。ほら」
周囲をぐるりと見回す。
「なに?」
「この部屋には誰かが立ち入った形跡はないのよ」
「そう言えば、そうだね」
「つまり犯人は、あっちの部屋と寝室だけに入ったことになる」
お盆を床に置くと、湯飲みを手に取った。
「ハチ、砂糖」
「砂糖? 砂糖をなんに使うの?」
「お茶には砂糖が付き物でしょ。まったく」
「あ、ごめん。そうだったね」
キッチンスペースに引っ込もうとするハチに続いて、リアルも散らかった部屋まで戻る。
「ハチ、撒かれているルーズリーフはアンタので間違いない?」
「うん。机の中にしまってあったやつなんだよ」
返事を聞きながら、部屋の隅に置かれているデスクまで移動する。
スタンダートな木製のデスクセットで、右側にはキャスター付きの三段式引き出しチェスト。
机上は綺麗に整頓されていた。
ノートや教科書は端っこに積まれ、筆記用具や定規もペン立てに入れられている。
「ん、これは……」
真ん中から少し右の辺りに、赤いインクで短い線が引かれていた。
一本ではなく、何本も。数ミリの長さの物から、一センチ近い物まで。
どれも右上を向いて伸びている。
「ルーズリーフは一番下の引き出しだよ。はい、お砂糖」
「ありがと」
受け取った砂糖壷から、山盛り二杯を自分の湯呑みに落とす。
「ハチ、この線はなに?」
「ほえ?」
スプーンで混ぜながら、机の上に書かれている線を指し示す。
「なんだろ。こんなの書いた覚えはないけど」
「知らないなら間違いないわね」
「え、なにが?」
「犯人はこの机でルーズリーフに、警告を書いたのよ」
「えっ!」
「この机に付いた線は、紙からペンがはみ出してできた物ね。あんだけの勢いを付けて、しかも慣れない左手で書けば、紙からはみ出してしまうこともあるわよ」
唖然とするハチを置いて、リアルは引き出しチェストの三段目を開けた。
未使用のノートやレポート用紙が積んであった。
続いて二段目、ここには使用中のノートと参考書。
一番上の段には、シャーペンの芯や消しゴム、蛍光ペンの替えインク等が入れてあった。
どこも丁寧に整頓されている。
「アンタってさ、変に几帳面なのね」
呆れた風にこぼす。




