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十月九日(水) -8-

「ホントにラブレターだったりしてね。いやん。どうしようかな。ね、どうしたらいいと思う?」

 

 さっきまでの緊張感が嘘みたい。

 切迫した空気が一気に弛緩し、沙耶は軽い目眩を覚えた。

 

「私には沙耶がいるし。やっぱり二股は許されないよね」

「バカバカしい」

 

 普段なら真っ赤になって怒るところだが、抜けたようなリアクションしかできなかった。

 

「見難いなぁ。赤い文字なんてセンス悪過ぎだよ。どれどれ、親愛なる生徒会長様へっと」

 

 緩みきっていた彩音の表情が文字を追っている内に険しくなっていく。

 時間にして数十秒で顔を上げた。

 

 沙耶が尋ねるよりも早く、便箋を差し出した。

 

 訝しげに思いつつも受け取り、内容を確認する。

 

 どす黒い紙に鮮明な赤い文字が並んでいた。

 手書きではない機械の打ち出した鋭角的なフォントが、配色以上に背筋を寒くさせる。


 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  

親愛なる生徒会長様へ

 

 永劫を思わせる長い時間を越え、ようやく機会を得るに至った。

 

 生徒会長様がこの手紙を読み終える頃、一人目の愚者がその屍を晒しているだろう。

 

 これから偉大なる六人の愚者が、私の路を開くための生贄となる。

 

 私が狂気と絶望を携え、そちらに辿り着くまでの間、しばしの平穏を過ごすがいい。

 

                                 七人目より

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

  

 読み終えて、沙耶は大きく息を吐いた。

 手紙を机に置き、左手で眼鏡を上げる。

 

「やっぱり下らない悪戯でしたね」

 

 極力明るい口調でそう断じた。

 

「『七人目の来訪者』は、このアカデミーの七不思議の一つですからね。それを上手くアレンジして、こんな悪戯を考え出したのでしょう。封筒も手が込んでいて驚きました。まあ、気分転換としては良かったですね」

「でも、この手紙を読み終える頃、一人目の愚者がその屍を晒しているって、ここが気になるんだよ。ひょっとして……」

「確か一人目が投身自殺するのでしたね。それに倣って誰かが身投げするとでも? まったくバカバカしい」

「そっか、沙耶はオバケとかダメだったよね」

「そういうことを言いたいのではありません。いいですか、常識的に……」

 

 沙耶の言葉を遮るように、会長室のドアが激しく叩かれた。

 

 二人が視線を向けると同時に、少女が転がり込んでくる。

 

「どうしたのです! ここは生徒会長室ですよ!」

 

 

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