十月二十一日(月) -8-
「なんてね」
表情を緩めた。
殺気とも言える雰囲気が即座に霧散する。
「少しはそういう心構えもいるかなって話よ」
「ううん。リアルの言う通りだと思う」
確証もなく犯人を決め付けたり、情に流されて判断を曇らせるようでは、ただの探偵ごっこになってしまう。
「私、やっぱりガッカリちゃんだな」
つい俯いてしまうハチの頭を、リアルがわしゃわしゃと撫でた。
「沈んでんじゃないの。半人前以下のアシスタントが、へこむなんて生意気もいいとこよ」
「リアル」
顔を上げたハチに、にぃっと犬歯を見せる。
不器用な励ましにハチも笑みを返した。
「でもさ、半人前以下ってのは酷くない?」
「褒めてるつもりなんだけど」
「全然褒めてないから」
「あはは。さて、お喋りはこれくらいにしてさ。こいつの中をチェックしないとね。ちょっとそっち持って」
目安箱の両側を、それぞれ持って持ち上げた。
かなり重く作られているが、二人ならなんとかなる。
「よし、振ってみるわよ」
上下前後に揺すってみる。
「微かに音がする。やっぱり来訪者は事前に余裕を持って行動するタイプだったわね。ところで、来訪者の事件が規則的だって気付いてる?」
「そうだっけ?」
「最初の落下事件が水曜日、ニ体目が金曜日。三体目が先週の水曜の朝だし、焼けた人形が見つかったのが金曜日。ね、水金ペースでしょ」
「でも、私が襲われたのは火曜日だし、新聞部の保管庫が荒らされたのは木曜日だよ」
「その二つは来訪者に関係ない事件、実行犯の暴走による事件だから無視していいの」
そう言いつつ、ポケットから何かを取り出した。
三センチくらいの青い塊だ。
「それなに?」
「練り消し。正確には練り消しゴム」
むにゅむにゅと手で揉んでいる間に、次第に粘り気が出てくる。
「先週金曜の事件なんだけど、あの時はメッセージが二通あったわよね」
「三杉先輩が入れ替えたやつだよね」
「一通目のメッセージには、木曜の保管庫荒らしの件が記されてなかった。つまり」
「人形は水曜日までに準備されたってことだよね」
「じゃあ、水曜の事件は月曜までに準備されてると読んだんだけど、正解だったみたいね」
練り消しを大きく左右に引き伸ばし、また戻してこねる。
「じゃあ、次の事件は明後日の水曜日に起こるってこと?」
「もちろん、それがこの事件の規則だから」
「ちょっと待って。それだと、最後、六人目の事件が起こるのは金曜日だよ」
「そうなるわね」
「ダメだよ。金曜日からは神有祭なんだよ。そんな事件が起こったら大騒ぎに」
「起こればね。まあ、そんなことは絶対にないんだけどさ」
「それってどういう意味?」
リアルの言葉にハチが大きく疑問符を浮かべた。
「ま、その話はあとで。先にこっちを済ませちゃおう。ハチ、この箱を逆さまにするわよ」
「え、うん。よいっしょっと」
二人で、上下を逆さまにして置く。
「後はこれを使ってっと」
言いながらリアルが懐から出したのは、教師が授業で使う伸縮式の差し棒だった。
その先端部分に練り消しを付ける。
「そんなのを持ち歩いてるの?」
「アタシの七つ道具。あれこれ使い道があって便利なのよ」
ポストの前にしゃがみ込むと、再び手を懐に。出てきたのは小型のペンライト。
ポストの口から覗き込み、中を照らした。
「よしよし、なんとか取れそうね」
差し棒をポストに差し入れ、慎重に動かす。
数秒後、引き戻した差し棒の先には一通の白い封筒が付いていた。
先端の練り消しをトリモチにして、引っ張り出したのだ。
「なんか犯罪っぽい」
「人聞きの悪いこと言わないの」
封筒を確認。宛名も差出人も書かれていない。
「ね、七つ道具って他にどんなのがあるの?」
好奇心に瞳を輝かせながらハチが尋ねる。




