十月二十一日(月) -7-
「うん。一緒だね。でもそれが当然だよ。もし違いがあったら問題になるから、ってあれ?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。
リアルが記したという方の地図を指差す。
「ここ、北校舎の裏側。ないはずの場所に印が入ってるよ」
「あら不思議ね。一致してないといけないはずなのに差異がある。ここから導き出される仮定は二つあるわよね。一つは、アタシが間違えて記入した。もう一つは?」
「誰かが置いた。となるとまさか、ひょっとして!」
「百聞は一見に如かずって言葉もあるくらいだし、とりあえず行ってみよっか」
※ ※ ※
校舎裏を通って、東校舎からぐるりと北校舎に向かう。
北校舎の裏側は夕方、日が落ちてしまった今の時間では、ひんやりしている上に薄暗く、どことなく不気味な雰囲気が漂っていた。
校舎の影に隠れるように、金属製の小型ポストが一つ置かれていた。
目安箱である。
高さは一メートル程度、幅はその半分、奥行きは三十センチくらい。
正面上部には手紙を入れる口が開いている。
「見て見て! リアル! ホントに置いてあるよ!」
「そんなに騒がなくても知ってるわよ。アタシが調べたんだから」
興奮するハチとは対照的。リアルは実に落ち着いている。
「これで仮定その一、アタシの記入ミスというのは消えたわね。となると、仮定その二、誰かが置いたになるんだけど。誰がなんの為に置いたと思う?」
「今までの状況を考えると、これを置いたのは来訪者だね。ここに手紙を入れて、実行犯に指示を伝えていたんだね」
「うん。正解ね。まあ、ここまでヒントが揃えば、簡単だったかな」
「えへへ。そりゃね」
「目安箱ならこんな場所にあっても不思議じゃないし、地図にないから回収する方も気付かない。しかも文通だから、顔を会わせずに済む。実に良く考えられた方法よね。さて」
箱を少しずらして、後ろ側を見た。
取り出し口があり、ステンレス製の南京錠が掛かっている。
「鍵があるね」
「そりゃそうでしょ。鍵は実行犯が持ってるはずよ。おそらく、最初に郵送で送ったんじゃないかな。一通なら誰にも怪しまれないし、それに……」
「米川先輩ならファンレターを沢山受け取るし、って言いたいんだよね。あのさ、リアル、ホントに米川先輩はこの事件に拘ってるのかな。実行犯なのかな」
「さあてね。どうだろ?」
「リアル、真面目に答えてよ」
真剣なハチの眼差しに、リアルは小さく溜息をこぼした。
「百パーセントの確証があるまでは、口にしちゃいけないのよ。真実に限りなく近いと思える物が、真実だとは限らないんだから」
「それは解るけど」
「動機と手段、それに物証。この三つを揃えないと、犯人と断じることはできない。この三つが揃って始めて、真実に辿り着くことができるの。それを忘れないで」
頷きつつもハチの顔からは不満の色が消えない。
「と言っても、納得できないか。じゃあ、アタシの推測を言わせてもらうわ。実行犯は米川純理と新聞部の桝村美佳子。主犯である来訪者については、まだ不確定要素が多すぎるので断定はできない」
「そんな。米川先輩と桝村先輩が」
「この点については、間違いないわね。先週木曜の件を見ても、彼女達は不自然過ぎでしょ」
「でも、先輩達が、あんな酷いことするなんて」
「情を挟むな。真実だけを見ろ。安っぽい情に流される人間に、真実を追う資格はない」
穏やかな子猫の瞳が、鋭い猛獣の目になっていた。
きつい視線に気圧されて、ハチは瞬きすらできなくなる。




