十月二十一日(月) -4-
「そうね。全部で七つ。アカデミーの七不思議は、その伝承に数字を持つのが特徴ね。ところで、この中で一番新しいのはどれだか解る?」
「え? そんなの解らないよ」
「『第六寮の幽霊』なのよ。この噂が生まれたのが寮の改装がされた二十年前。その前は、『六人目の来訪者』と『揃わない七不思議』だったのよ」
「来訪者が六つ目だったの?」
「七不思議なんて噂は時代と共に移り変わっていく。これはさっき米川純理も言ってた通り。本来は『第六寮の幽霊』が生まれたせいで、消えた話だったの。そうよね?」
小さく肩を竦める純理に、リアルは話を続ける。
「『揃わない七不思議』。アカデミーの七不思議は六つしかない。これが最後の七不思議になるんだけど。これじゃあ、インパクトに欠けるわよね」
「だから、七つ目の話を付け加えた。本当にそうなんですか、米川先輩」
「ふふ」
小さく含み笑いをこぼすと、ぱちぱちと手を叩いた。
「見事な推理です。感嘆しました。真実を見通す瞳というのは、冗談ではないみたいですね」
「あら、アンタにそう言ってもらえると嬉しいわね」
「では、わたくしから質問させていただいてよろしいですか?」
「いいわよ」
「わたしくしが七不思議を一つ付け加えた。それが今回の事件にどんな関係があるのでしょう。わたくしが来訪者のフリをして、下らない悪戯を繰り返して喜んでいるとでも?」
「まさか。アンタはただの協力者。指示を受けて動く実行犯に過ぎない、ね」
「どんな確証があって仰っているか解りかねますが、言い掛かりにしか聞こえませんね」
「改めてお願いするわ。来訪者からの手紙を見せてくれない?」
「これは困りました。持ってない物をどうやってお見せすればいいのでしょう」
リアルと純理がしばし無言で見つめ合う。
漂う緊張感に圧倒され、ハチがごくりと喉を鳴らした。
「まあ、いいわ。ところで、先週の火曜日、アンタはハチと食堂で話をしたわね」
「ええ、少しですけれど」
「ハチと別れてから、どこで何をしていたか。教えてくれる?」
「寮に戻って漫画を描いていました。神有祭に向けての新作です。それが何か?」
「ううん。ちょっと事件があったもんでね」
「つまりわたくしを疑っていると?」
「さあてね。ところでさ、ずっと気になってたんだけど」
純理の胸元を指差した。
「それなに?」
「あ、これですか」
シャツについていた小さな灰色の紙片を指でつまむ。
紙ではなく薄いフィルムだった。
小さな点が細かく並んでいる。
「これは、スクリーントーンという物です。漫画原稿に貼り付けることで、色や模様を表現できるのですよ。こんな風に」
机に置かれていた原稿用紙を手に取って二人に見せる。
「漫画の模様って、こうやって出来てるんだね」
「ふうん、これは知らなかったわ」
「まあ、普通の方には珍しい物ですよね」
「それをシャツに付けていたのは、なにかのおまじないなの?」
リアルの質問に、純理が苦笑する。
「いえいえ、トーンはナイフで切って使うのですが、こういう破片があちこちに付いてしまうのです。裏面に接着剤がついているので」
「もうちょっと見せてもらっていい? 触らせてもらっていい?」
「もちろん、構いませんよ」
好奇心に瞳を輝かせるリアルとハチの手にそれぞれ、シャツから取った破片を置いてやる。
「すごく薄いね。ホントだ。裏にノリが付いてるよ」
「これは、使えるわね」
「使えるとは?」
「あ、ううん。なんでもないの。こっちの話。気にしないで」
慌てて両手を振って話題を散らす。
「さ、ハチ、そろそろ帰ろっか。いつまでも邪魔してちゃ悪いし」




