十月二十一日(月) -3-
穏やかな笑みを浮かべていた純理の眉が微かに動いた。
「オカルト研究会を舞台にした話なんだけどね」
ミノリから聞いた集団退学事件の顛末を簡単に説明する。
「なかなか興味深い話ですね」
「その話も『七人目の来訪者』に似てるね」
「でも、儀式を行った人間の数が違う。一人増えてる。これが最大のポイントよね。ハチ、何故だと思う?」
「何故って言われても」
いきなりの質問に面食らいつつも考える。
しかし、明確な答えは見つからない。
「アンタはどう思う?」
純理に問いを向ける。
「さあ、想像もつかないですね」
「あら、アンタなら答えられると思ったんだけど」
「ご期待に添えなくて心苦しい限りですが……」
「じゃあ、質問の仕方を変えるわ」
リアルが遮った。
「本来は儀式に参加したのは五人のはずよね。どうして六人に変更したの?」
珍しく純理が黙り込んだ。
変わる事のない柔和な表情が、不気味な仮面のようだ。
「リアル、それってどういう意味?」
「さあてね。どういう意味なんだろ。まあ、黙ってても本人が説明してくれるわよ」
「四年前に描いた物語は、別の学校という設定ですが、実はこのアカデミーの七不思議をアレンジした物なのです」
小さく息をついて、純理が説明する。
「七不思議というのは、時代と共に移り変わっていくものです。ですから、かなり昔に語られていた話に現代風のアレンジを加えてみたのです。悪いことではないと思いますけど」
「全然悪いことじゃないわよ。作品のクオリティも初等部とは思えないくらい高かった。随分と売れたはずよね」
「それなりには、とお答えしておきます」
「でも、アンタの目的は本を売ることなんかじゃなかった。本当の狙いは怪談ブームを起こすことだった。そうよね」
「ご冗談を。ブームなんて一人の力で起こせる物ではありませんよ」
「もちろん、一人じゃ無理。でも、こんな噂が流れたらどうかな。漫画に描かれていた物語はアカデミーに伝わる本当の話なんだって。話し好きのアカデミー生なら、どんどん尾ひれをつけて伝わってくんじゃない? 現にここ数年はそんなのが流行ってるしさ」
「面白い想像ですね。仰る通り、わたくしの作品は怪談や奇譚を好む方々によって支えられています。わたくしが在籍中に、オカルトブームがきたというのは、幸運だったと言えるでしょうね」
曖昧な言葉で、この問答に決着を付けた。
「幸運ね、まあいいわ。じゃあ、質問に戻るわよ。何故、犠牲者を五人から六人に増やしたの?」
「仰る通り、本来の七不思議では犠牲者は五人でした。でも、それではダメなのですよ」
「あら、どうして?」
「オカルトに詳しくない詩方さんは御存知ないと思いますが、異界からの召喚術には三角形を組み合わせた六芒星を用いるのです。五芒星は己の身を護る物なのですよ」
「そう言えば、アタシが読んだ本にも、そんな記述があったわね」
「それが犠牲者を五人から六人に変更した理由です。これで疑問は解決しましたか?」
「悪いけどさ、それじゃ納得できないのよね」
リアルの目が鋭さを増した。
「だって召喚儀式は失敗するんでしょ。例えば、五芒星を使ったから失敗しました。でもいいわけじゃない? むしろ今伝わっている話より、信憑性が出るんじゃないかな」
「そう言われると、そうだよね」
六人目が呪文を唱えなかった。
それが『七人目の来訪者』で儀式が失敗した原因になっている。
途中で怖くなったというのが理由となっているが、その部分は強引な感が否めない。
リアルの提案どおり、儀式のやり方にミスがあったとした方が納得できる。
「ハチ、このアカデミーの七不思議って全部知ってる?」
「もちろんだよ。有名だもん」
「列挙してみて。そうすれば解るからさ。何故、犠牲者が六人でなければいけなかったのか」
リアルの意味深な言葉を気にしながらも、ハチは指を折って数え始める。
「最初が『理科実験室の一つ目標本』でしょ。次が『屋上の二枚の鏡』。『三個の赤い果実』と『死に誘う四通の手紙』と、それから、えっとえっと」
「『呪われた五つの管楽器』、『第六寮の幽霊』、そして『七人目の来訪者』ですよ」
途中で詰まったハチの続きを純理が補った。




