十月九日(水) -7-
「だから、落ち着いてってば」
ぐいっと押し退けて距離を取った。
「危険物が入ってるなら、なおさら渡せるわけないじゃない!」
「貴方は生徒会長なのです。万が一のことがあったらどうるすのです。アカデミーの生徒に対する責任があるんですよ!」
「沙耶に危ないことさせるくらいなら、生徒会長なんて辞めてやるわよ! 今すぐにでも!」
沙耶の手が止まった。
その隙に彩音は封筒を胸元に引き寄せ、身体全体で隠すような姿勢を取る。
「言い出したら聞かない。まったく、いつまで経っても子供なんですから。これだから彩音といると疲れるんです。でも」
力の抜けた手を、ゆっくりと引き戻す。大きく息をついて、
「でも、今の一言は嬉しかったです」
優しい表情を浮かべた。
「解りました。開けてみましょう。ただし、私が開けます」
彩音が反論しようと、しかし口を挟ませる隙は与えない。
「彩音に危ないことをさせるくらいなら、副会長なんて辞めてあげます。今すぐにでも」
直前の台詞を引用されて、言い返す術はなかった。
しばらく考えて、手紙を差し出す。
「言い出したら聞かない。いつまで経ってもガキよね。だから沙耶といるのは疲れるのよ」
「残念ながら、それはお互い様のようですね」
引き出しから取り出したペーパーナイフで、固く糊付けされている封を解いた。
震える指先を動かして、封筒の口を出来る限り開く。
中を確認。
異物はない。三つ折りされた紙が一枚だけ。
だが、油断は禁物。
今度は封筒の左右、続いて下を切った。封筒が前後二つに割れる。
中の便箋に息を飲んだ。封筒と同じ鈍く黒ずんだ赤だった。
「ラブレターだったらかなりの悪趣味よね」
ただの紙一枚に安心した彩音の軽口に呆れつつ、沙耶は思案する。
危険がないと断定できない以上、直接触れるのは避けたい。
ではどうやって開くか。
思案する沙耶を差し置いて、彩音がひょいと手を伸ばし摘み取った。
もちろん素手で。
「開けるのは沙耶の仕事だったんだから、見るのは私の仕事だよね」
「な、何をするんですか!」
唖然としていた沙耶が声を上げた。
「開けて大丈夫だったんだから、もう安全だって」
「そんな保障がどこにあるというんです!」
「相変わらず神経質なんだから」
「彩音が無神経過ぎるのです。普段の行動からしてそうです。先週の水曜日だって」
「あぁ、はいはい。解ってるわよ。気をつけます気をつけます」
いつもの小言モードに入った沙耶に適当な返事を返しながら、がさがさと便箋を広げる。