十月二十一日(月) -2-
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商業部棟四階。
廊下の一番突き当たりにある部屋が漫画制作部である。
文化部にも漫画研究会というクラブがある。
しかし、漫画を描く事、読む事を楽しむ彼女達に比べ、漫画制作部は漫画雑誌の制作販売が中心。
その為、シビアで厳しい。
リアルとハチが尋ねると、出迎えた部員は甚だ迷惑そうな顔を見せた。
が、生徒会の調査となれば、協力しないわけにもいかない。
しぶしぶながら、部室の中に招き入れられた。
室内は教室くらいの広さだった。
高さ一メートル半程の仕切り壁で、パーティション分けされている。
壁の向こうでは、作家がペンを走らせているのだろう。細かな線を引く音が聞こえてくる。
窓際の一角に案内された。
ここがジューン・ヨネカワこと、米川純理の作業スペースだ。
「八房さんに詩方さん、どうなされたのです? わたくしに何か?」
デスクに向かっていた純理が静かに立ち上がり、二人を笑顔で迎えた。
「すいません。お忙しい時に」
「ちょっと聞いておきたいことがあってね」
恐縮するハチに比べて、リアルはあくまでマイペースだ。
「思ったよりも狭いのね。漫画描いてて息がつまらない?」
壁に囲まれたスペースは、一畳半くらいだろう。
そこにデスクと小ぶりな棚がある。
随分と狭く感じてしまう。
「このくらいの大きさが、集中できて丁度良いのですよ。でも、お客様を迎えるには、窮屈ですね。外で話しましょうか。他の方の邪魔にもなりますし」
「ここでいいわよ。わざわざ移動するのも面倒だしさ」
「そうですか。神有際に向けて少々多忙なのです。手短にお願いしますね」
リアルの素っ気ない言葉にも笑みを崩さず答える。
「あ、そうそう。『恐怖の千夜一夜』読ませてもらったわ。キャラクター達の心情が丁寧に描かれてて、とても良い作品ね、びっくりしちゃった」
「あら、ありがとうございます」
「お世辞抜きで素晴らしいかったわ。作者の人格って作品に出ないもんなのね」
ぴくりと純理の頬が動く。
和やかだった空気が、僅かに陰りを帯びた。
「で、今日はどのような御用で?」
少し苛立ちを含んだ声で、用件を尋ねる。
「単刀直入に言わせてもらうわ。来訪者からの手紙を見せて欲しいんだけど?」
数秒の間があった。
「奇妙なお話ですね。来訪者は文通の趣味をお持ちなんですか?」
「そうなの。かなり一方的なんだけど、用件はなんでも手紙で済まそうとするのよ」
「それは初耳でした。そして、その手紙を私が持っていると?」
「うん。アンタが受け取っているはずでしょ」
「困りましたね。こういう場合は、どう反応すればいいのでしょう」
小さく首を傾げて、思考を巡らす。
「まあいいわ。じゃあ、少し話を変えよっか」
純理の返事を待たず、リアルはそう宣言した。
「四年前、アンタが描いた漫画になんだけどさ。ある学校で悪魔を呼び出そうとする学生達の話があったわ」
いきなり飛び出した話に、ハチが目を丸くする。ハチの持っている本は去年からの分だけ。
同じ一年生であるリアルが、四年前の本をどこで目にしたというのだろう。
「仲良しサークル六人で、異世界から化け物を呼び出そうと召喚の儀式をするんだけど」
「しかし、それは不完全だった為に失敗。召喚した化け物に報復を受け、自ら命を絶つことにになる。そんなお話でした」
リアルを追い抜いて、あらすじを述べる。
「当時の私は初等部でしたから、まだまだ稚拙な部分がありました。しかし、そんな昔の話を御存知だったとは驚きですね」
「ちょっと過去に詳しい友人がいてね。ところでさ、この話って似ていると思わない?」
「似ているとは?」
「七不思議の一つ。『七人目の来訪者』によ」
異界からの召喚。儀式の失敗。六人の犠牲者。
キーワードは確かに重なる。
「まあ、ありがちな話ですからね」
「じゃあ、二十二年前、このアカデミーで奇妙な事件があったのを知ってる?」
また話題が変わった。ハチは展開についていくので精一杯だ。




