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十月二十一日(月) -2-

                    ※ ※ ※


 商業部棟四階。

 廊下の一番突き当たりにある部屋が漫画制作部である。

 

 文化部にも漫画研究会というクラブがある。

 しかし、漫画を描く事、読む事を楽しむ彼女達に比べ、漫画制作部は漫画雑誌の制作販売が中心。

 その為、シビアで厳しい。

 

 リアルとハチが尋ねると、出迎えた部員は甚だ迷惑そうな顔を見せた。

 が、生徒会の調査となれば、協力しないわけにもいかない。

 しぶしぶながら、部室の中に招き入れられた。

 

 室内は教室くらいの広さだった。

 高さ一メートル半程の仕切り壁で、パーティション分けされている。

 壁の向こうでは、作家がペンを走らせているのだろう。細かな線を引く音が聞こえてくる。

 

 窓際の一角に案内された。

 ここがジューン・ヨネカワこと、米川純理の作業スペースだ。

 

「八房さんに詩方さん、どうなされたのです? わたくしに何か?」

 

 デスクに向かっていた純理が静かに立ち上がり、二人を笑顔で迎えた。

 

「すいません。お忙しい時に」

「ちょっと聞いておきたいことがあってね」

 

 恐縮するハチに比べて、リアルはあくまでマイペースだ。

 

「思ったよりも狭いのね。漫画描いてて息がつまらない?」

 

 壁に囲まれたスペースは、一畳半くらいだろう。

 そこにデスクと小ぶりな棚がある。

 随分と狭く感じてしまう。

 

「このくらいの大きさが、集中できて丁度良いのですよ。でも、お客様を迎えるには、窮屈ですね。外で話しましょうか。他の方の邪魔にもなりますし」

「ここでいいわよ。わざわざ移動するのも面倒だしさ」

「そうですか。神有際に向けて少々多忙なのです。手短にお願いしますね」

 

 リアルの素っ気ない言葉にも笑みを崩さず答える。

 

「あ、そうそう。『恐怖の千夜一夜』読ませてもらったわ。キャラクター達の心情が丁寧に描かれてて、とても良い作品ね、びっくりしちゃった」

「あら、ありがとうございます」

「お世辞抜きで素晴らしいかったわ。作者の人格って作品に出ないもんなのね」

 

 ぴくりと純理の頬が動く。

 

 和やかだった空気が、僅かに陰りを帯びた。

 

「で、今日はどのような御用で?」

 

 少し苛立ちを含んだ声で、用件を尋ねる。

 

「単刀直入に言わせてもらうわ。来訪者からの手紙を見せて欲しいんだけど?」

 

 数秒の間があった。

 

「奇妙なお話ですね。来訪者は文通の趣味をお持ちなんですか?」

「そうなの。かなり一方的なんだけど、用件はなんでも手紙で済まそうとするのよ」

「それは初耳でした。そして、その手紙を私が持っていると?」

「うん。アンタが受け取っているはずでしょ」

「困りましたね。こういう場合は、どう反応すればいいのでしょう」

 

 小さく首を傾げて、思考を巡らす。

 

「まあいいわ。じゃあ、少し話を変えよっか」

 

 純理の返事を待たず、リアルはそう宣言した。

 

「四年前、アンタが描いた漫画になんだけどさ。ある学校で悪魔を呼び出そうとする学生達の話があったわ」

 

 いきなり飛び出した話に、ハチが目を丸くする。ハチの持っている本は去年からの分だけ。

 同じ一年生であるリアルが、四年前の本をどこで目にしたというのだろう。

 

「仲良しサークル六人で、異世界から化け物を呼び出そうと召喚の儀式をするんだけど」

「しかし、それは不完全だった為に失敗。召喚した化け物に報復を受け、自ら命を絶つことにになる。そんなお話でした」

 

 リアルを追い抜いて、あらすじを述べる。

 

「当時の私は初等部でしたから、まだまだ稚拙な部分がありました。しかし、そんな昔の話を御存知だったとは驚きですね」

「ちょっと過去に詳しい友人がいてね。ところでさ、この話って似ていると思わない?」

「似ているとは?」

「七不思議の一つ。『七人目の来訪者』によ」

 

 異界からの召喚。儀式の失敗。六人の犠牲者。

 キーワードは確かに重なる。

 

「まあ、ありがちな話ですからね」

「じゃあ、二十二年前、このアカデミーで奇妙な事件があったのを知ってる?」

 

 また話題が変わった。ハチは展開についていくので精一杯だ。

 


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