十月二十一日(月) -1-
十月二十一日(月)
月曜日の放課後。アカデミー中等部の南側。
文庫本を手に、通用門の端にもたれ掛かかるリアルの姿があった。
終業から十五分。
寮に向かう生徒の姿が、ぽつりぽつりになってきた頃。
「リアル!」
走り込んで来たハチが、両手を合わせて頭を下げた。
「ごめん。もっと早く来るつもりだったんだけど。掃除当番で遅くなっちゃって」
「ううん。アタシも今、来たところだからさ」
文庫本から目を上げて、愛らしい笑みを浮かべた。
と、その表情が不意に曇る。
「ね、ハチ」
「あの、ホントにごめん」
「気にしなくていいってば。アタシってそんな神経質に見える?」
時間にうるさそうなタイプなのに、意外と寛大なところにハチは驚く。
「それより、ちゃんと寝てる? 睡眠不足なんじゃない?」
「どうして?」
「白目が澱んでるし、血色が少し悪い。瞬きも多いし、髪の張りが良くない。それから……」
「もういいから。解ったから」
相変わらずの洞察力に感心しつつも、リアルの説明を遮った。
真実を見通す彼女の瞳には、隠し事なんてできない。
「実は先週末くらいから、あんまり眠れてないんだ」
「悩みでもあるの? アタシで良かったら相談に乗るわよ」
「いや、悩みとかじゃなくて、その、なんて言うか。笑わないでね」
「苦しんでる友人を笑うわけないでしょ」
「その、怖い夢ばかり見て、何度も目が覚めて」
しばしの間があった。
「くふっ、怖い夢ってアンタ。あははは」
「酷いよ。笑わないって言ったのに」
「笑うなってのが無理。初等部の子供じゃないんだから。あはは」
「うぅ、だってすっごく怖い夢なんだよ」
恥ずかしさと憤りで真っ赤になった頬を目一杯に膨らませ、自己の正当性をアピールする。
「はいはい。で、どんな夢なの?」
「それは、その」
視線を外して言葉を揺らす。
「悪夢って言ってもさ、所詮は脳が作り出す妄想なんだから、その理由が明らかになれば怖くなくなるもんよ」
「でも」
「ほらほら、話してごらん。聞いてあげるから」
瞳を輝かせて、好奇心丸出しで聞いてくる。
「絶対楽しんでるよ」
「ん? なに?」
「なんでもない。夢なんだけど、すっごく変な夢なの。大きくて黒い何かに押さえつけられるの。身体を動かそうとしても全然ダメなの、苦しくて重くて。で、そこで目が覚めるの」
「金縛りってやつ?」
「そうじゃないんだけど。目が覚めるとちゃんと身体も動くし。でも、なんていうかな、気配みたいなのを感じるの。ずっと誰かが部屋にいるみたいな。ずっと誰かに見られてるような」
ぶるるっと肩を震わせる。
「慣れないことをして、神経が高ぶってるのかもしれないわね。だとすると……」
「私、アシスタントは止めるなんて言わないよ。もう、絶対に」
「うん、ありがと。あてにしてるわよ」
「えへへ、任せてよ。で、今日はどうするの?」
「そうね。まずはクラブ棟、漫画制作部に。米川純理に少し聞きたいことがあるのよね」
やっぱり。
予想していた答えだった。
「ね、リアル。米川先輩が来訪者なのかな」
「結論を急がないの。まずは一つでも多くの真実を集めること。ピースが揃わないとパズルは完成しないんだから」
つまり、純理がリアルの言うピースの破片を持っているという事になる。
ファンであるハチにとっては、複雑な心境だ。
「さて、そろそろ行っか」
「うん」
二人並んで東に向って歩き出す。
右にリアル、左にハチ。定番の立ち位置だ。




