十月十八日(金) -11-
「なんでアタシが……」
「リアル!」
「ああ、解った解った。無事に解決したら謝ってあげるわよ。なんとなく」
なんとなくという単語が引っ掛かるが、それでもこれ以上の要求を呑ませるのは難しいだろう。
とりあえずは納得して矛を収めた。
「電話じゃないとすれば、どうやって連絡を取り合ってるんだろう」
「連絡を取り合ってないとしたらどうする?」
「え、それってどういう意味?」
「頻繁に連絡を取っているなら、昨日の事件後、すぐに手紙を換えられたはずでしょ」
「そう言えばそうだけど、でもなんか手違いがあったのかもしれないし」
「今回のことだけじゃ、そういう仮定もあるわね。でも、もう一つ、気になることがあるの」
「気になること?」
「花火よ」
「へ?」
いきなり飛んだ話に面食らう。
「花火って最初の事件の?」
「あの花火に、どんな意味があったのか」
最初の事件。
人形が落ちる前に、数発の打ち上げ花火が上がったのだ。
「ハチ、いきなり花火の音が聞こえたらどうする?」
「びっくりするかな。で思わず音の方を見ると思う」
「じゃあ、校舎の近く。打ち上がった花火が見えないくらいの位置だったら」
「それって、校舎の壁際くらいの位置だよね。それなら、なんの音だろうって思って、屋上が見える位置まで移動する」
「つまり?」
「校庭に出て見上げる」
「花火は単発じゃなくて、数発上がったのよね。ということは、花火が上がってから人形が落下するまでに、少しだけど時間があったということよね」
「その間に校舎の近くにいた人は、校庭側に移動できるね。でもなんのためだろ」
「あの事件には不確定要素が含まれていた。一つは屋上の人形に誰も気付かない可能性。もう一つは人形の落下に生徒が巻き込まれる可能性。だから犯人は花火を使った。人形に注目を集めることもできるし、落下に巻き込まれそうな生徒を移動させることもできる」
「犯人はできる限り安全面を考慮したってことかな」
「自己満足の範囲よ。巻き込まれたら怪我では済まないんだから」
「それはそうだけど」
「しかし、そこまで安全性に気を配った犯人が、こともあろうにアンタを襲って怪我をさせた」
一昨日の事件。
その時の恐怖を思い出して、ぶるっとハチが肩を震わせる。
「この事件は実に直線的で、狡猾な来訪者のプランとは思えない。となると、この二つの事件は首謀者が異なると考えるのが自然ね。人形に関する事件は主犯格の指示、ハチを襲ったのは実行犯の独断じゃないかと推測できる」
リアルの説明に、ハチがうんうんと頷く。
「そうなると、疑問が出てくるわね」
「何故、実行犯の行動を許可したかってことだよね」
「そう、計画を御破算にしかねないほどの危ない行動よ。許可できるはずがないわ。と、そこから推測できることはなに?」
「実行犯は来訪者の一方的な指示を受けて動いている、ということかな?」
「そう考えるのが妥当ね」
「でも、どうやって指示してるんだろう」
「そんなの簡単じゃない。来訪者様お得意のやり方、文通大作戦よ」
「じゃあ、生徒会の郵便係に聞いてみるよ。事件の前後に不審な手紙を運ばなかったかって」
張り切って駆け出そうとするハチの三つ編みお下げを掴んで、文字通り引き止める。
「あいたた。もう、酷いよ!」
目に涙を溜めて振り返るハチに、リアルが大きな溜息をこぼす。
「まったく、アカデミーで配達される手紙がどらくらいあると思ってんのよ」
本土からの郵便や生徒間の手紙は、一旦生徒会に集められ、そこから郵便係の手によって各寮の部屋に配達される。
その数は、毎日二百は軽い。
「不審な手紙を送るなんて有り得ないし。そもそも、狡猾で慎重な来訪者が生徒会の郵便を連絡に使うわけないでしょ。ちょっとは頭を使いなさい」
「うぅ、それはそうだけど」
行動しようとした矢先に水を差されるのは面白くない。
しかも反論できないだけに悔しさは一層だ。
「じゃあ、リアルは来訪者がどうやって連絡してるか解ってるの?」
頬を膨らませて聞いてみる。
「ハチ、手紙ってのは送るだけじゃないのよ」
「え? それってどういう意味?」
「さあってね。どういう意味なんだろ?」
「ねえ、教えてよ。気になるよ」
「まったく、しょうがないわね。教えてあげるわよ」
小さく溜息をこぼす。
「いい? 謎ってのはね、もったいぶるほど価値が出るものなのよ」
「そんなの聞いてないよ!」
ハチのシンプルな反応に、リアルが実に彼女らしい意地悪な笑みを見せた。




