十月十八日(金) -10-
「別段、怪しいところはないな」
「周りがこんなに焦げてるのに、字の部分が綺麗に残ってるのは、少し不自然だけど」
「来訪者が燃やしたとするなら、文字の書かれた範囲を残して燃やすのは簡単だろう」
「ちょっと難しいかな。じゃあ、ヒントをあげるわ。アスリートさんの受け取った手紙にはなんて書いてあった?」
「ガーデンスペースの裏に行って、ポケットの手紙を交換して、風紀委員に連絡しろ」
ブツブツとハチが繰り返す。
どこか不自然な部分を感じる。何かが心に引っ掛かる。
来訪者からのメッセージ。焦げた人形。翔華の受け取った手紙。
「あ! 解ったよ!」
天啓が閃いた。
ハチが思わず声を上げる。
「ほら、風紀委員長、あっちは真実に一歩近づいたわよ」
「こういうのは性に合わんな」
真樹が小さく肩を竦めた。
これ以上、謎解きに挑戦する気はないらしい。
「ハチ、説明してあげて」
「この人形がここに置かれた時は、最初の方の手紙を持ってたんですよ! だから、三杉先輩に交換させたんです!」
「だからなんだと言うのだ?」
「鈍いわね。人形を焼いたのは来訪者。二通の手紙を準備したのも来訪者」
「普通なら、新しい方の手紙を人形のポケットに入れて、ここに置くはずですよね」
「それなのに、そうしなかった。いや、そうできなかった。どうしただと思う?」
はっと真樹が息を飲んだ。
「人形をここに置いたのは、来訪者ではないのだな!」
「ようやく正解に辿り着いたわね。来訪者はプランを立てて準備を整える主犯格と、指示に従って人形を置く実行犯に分かれる。これで、一つの前提が覆るわね」
「アリバイだね。最初の人形の」
「ハチ、なかなか鋭いぞ。唯一仕込みではなかった最初の事件。あの時のアリバイは意味がないってこと。事前に指示を出せさえすればいいんだからね」
「逆に容疑者が不特定多数になったではないか」
真樹が不満そうな声を出す。
「でも、これは大きなヒントよ。主犯と実行犯は何度も連絡を取り合っているはず。それを押さえれば、犯人は特定できるわね」
「問題はどうやって連絡をとっていたかだが」
「普通に考えるなら寮の電話よね」
「そうだな」
携帯電話等の通信機器を個人で持つのは厳禁。
電話は自室にある固定電話だけだ。
「これは独り言だけど、米川純理は水曜日が五コマなのよね」
「繋がったか。よし、米川の通話記録を洗うとしよう」
「かなりの量よ。そんな面倒なことに付き合いたくないんだけど」
「お前の力など必要ない」
「あっそ。じゃあ、お任せするわ」
「ご苦労だったな。ここまで来れば、後は風紀委員だけで十分だ」
リアルにそう言うと、周囲の風紀委員を呼び集めた。
手短に状況を告げ、寮に向う。
あっという間の撤収。
数分後、残されたのはリアルとハチの二人だけ。
「迅速な行動は、唯一の取り得ね。それより人海戦術以外の方法を知らないのかな」
「リアル、その言い方は酷いよ。でも、これで事件も解決だね」
「なに言ってんの?」
「だって、通話記録を確認すれば、犯人を特定できるって」
「連絡に部屋の電話なんか使うわけないでしょ」
「え? でもさっき」
「アタシは人に連絡する時に、普通なら寮の電話を使うって言っただけよ。来訪者が電話を使って指示を出してるなんて言った覚えはないわ」
意地悪気な表情で実に嬉しそうに話す。
「風紀委員長が勝手に早とちりしただけよ」
「じゃあ、直ぐに教えてあげないと!」
「ダメ!」
真樹達を追って駆け出そうとするハチを、リアルが鋭い声で制止する。
「今回の相手は一筋縄じゃいかないわ。こっちも策を弄さないとダメなの。だから風紀委員達にはちょっと派手に動いてもらいたいのよ。米川純理の周りでね」
敵を欺くには、まず味方から。使い古された諺が思い浮かぶ。
「解ったよ。リアルがそう言うなら。でも、解決したら、先輩に謝るって約束してくれる?」




