十月十八日(金) -9-
「ふうん。いつにも増してセンスのない文章だこと。で、元々この人形のポケットに入っていた紙は?」
「これだよ。気味悪いから、後で捨てようと思ってたんだけど」
くしゃくしゃになった紙を渡す。
紙は人形の手にあった物と同様にあちこちが焦げていたが、読む分には問題なかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
親愛なるアカデミーの皆様へ
四人目の愚者がその屍を晒した。
残るは二人。偉大なる愚者の屍が、私を導いてくれるだろう。
動き出した運命は止められない。
どんなに抗おうが、惰弱なる人の力では、私を止めるなどできようはずもないのだ。
無力さを噛み締め、ただ私の来訪を待つが良い。
それが親愛なる諸君らに残された唯一の路なのだから。
七人目より
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ほら、微妙に違ってるでしょ」
「うん。私に挑もうとする者って部分がないね」
「悪いことだとは思ったよ」
紙を見ながら意見を交換するリアルとハチに、翔華が申し訳なさそうに告げる。
「でも、もうすぐ本土で大会があるんだ。みんなそれに向って一生懸命練習してるだよ。もし、みんなに何かあったらって思うと」
「気持ちは良く解るわ。指示も無茶な要求じゃないしね。それよりも責められるべきは……」
ちらりと真樹に目をやった。
「なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」
「なんだじゃないでしょ! アンタら風紀委員がボンクラだからでしょうが!」
珍しく語尾を強めるリアルに、真樹が言葉を詰まらせる。
「表側から、ここが見えるはずないでしょ。不自然な嘘に何故気付いてあげられないの? 助けを求めてるのが解らないの?」
「それは、その、いや返す言葉もない。すまなかった」
的を射た指摘に反論できず、真樹は翔華に向かい頭を下げる。
「そんなに言わなくても。それに悪いことをしたのは自分の方だし」
「アタシからも謝っておくわ。でも、安心して。アンタにも他の陸上部員にも指一本触れさせないから。ね、風紀委員長」
「ああ、部室や寮の見回りを増やす。安心してくれ」
「そうしてくれると嬉しいよ。練習に専念できるし」
「時間を割かせて悪かったわね。応援してるから、本土の連中に負けないでね」
「ありがとう。約束はできないけど、ベストを尽くすよ。悔いのないように」
真樹とハチにも簡単な挨拶を残し、ランニングに戻る。
翔華の背中を見送ってから、真樹が大きく息をついた。
「その、なんだ、今回は風紀委員に落ち度があった」
「今回も、でしょ?」
「うわわ。リアル、それは言い過ぎだよ」
「だが、このアカデミーの風紀を支えているのは探偵気取りの子供ではなく、我々風紀委員だということを認識しておくのだな」
「うわわ。鷹壱先輩も、そんな言い方しなくても」
険悪な方向に走り出した雰囲気に慌てつつも、
「そ、そうだ。リアル、どうして手紙の内容が違うんだろう。不思議だよね」
やや強引に話題を変える。
「ま、いいわ。不毛な会話を続けててもしょうがないしね。じゃあ、今回の手紙にどれほど重要な意味があるか説明してあげる。まず最初に人形のポケットに入っていた手紙を見てごらん」
広げられた手紙を、ハチと真樹が覗き込む。
いつも通り、どす黒い紙に並ぶ赤い文字。鋭角な書体が人間味を感じさせない。
紙の周囲が焦げて崩れているが、字の書かれている部分は欠けることなく残っている。




