十月十八日(金) -8-
「陸上界期待の超新星が言うと重みがあるわね」
「期待の超新星って」
随分と持ち上げた表現に、翔華が苦笑する。
「ランニングコースは毎日同じなの?」
「時々変えることもあるけど。大体は寮から、焼却炉の前までを何度か往復する感じだよ」
「公園の中やガーデンスペースの間を走ったりする?」
「ううん。道に沿って近くを走るだけだね」
「なるほど。とっても参考になる情報だったわ。ありがと」
「これでいいのかな? 風紀委員の人には、どこをどう進んだかとか、時間はいつくらいだったとか、細かく聞かれたんだけど」
「あはは。それはアイツらが、おバカだからよ」
意外な発言だったのだろう。翔華がきょとんとした。
「リアル、そんな言い方しちゃダメだよ」
ハチが慌ててフォローに入るが。
「だっておバカなんだもん。しょうがないじゃん」
声のボリュームを上げて繰り返す。
ハチが後ろに立っている真樹に目をやった。
怒りを噛み殺しているのが解る。
「アタシね、時間を浪費する趣味はないの。だから単刀直入に言うわ。来訪者から受け取った手紙を見せて欲しいの」
翔華が息を飲んだ。
大きく見開かれた瞳が、彼女の受けた衝撃の大きさを雄弁に語っていた。
「まさか、君が第六寮の少女」
翔華が小さく漏らす。
「あら、アタシのことを知っててくれてるなんて嬉しいわね」
「噂で聞いていたけど、まさかこんな……」
「愛くるしい子だとは思わなかった?」
「そうは思わないんじゃないかな」
「ハチ、それどういう意味よ?」
ついこぼれた言葉に、リアルが食いつく。
「まさか、こんな生意気なガキだとは思わなかった。それが正直なところだろう」
真樹が呆れつつも、最もしっくりくる答えを返した。
「その言い方は随分と失礼なんじゃない?」
普段の己が言動を軽々と棚に上げて、不機嫌な顔を作る。
「いや、そんな風には思ってないよ。なんて言うか、イメージと随分違っただけ」
「アタシのイメージって、どんなのが伝わってるんだろ」
少し大袈裟に溜息をつき、「まあ、いいわ」と話題を戻す。
「来訪者から受け取った手紙を見せて欲しいのよ」
「なんのこと、かな」
「来訪者から手紙が来たでしょ。この人形の胸ポケットに入れる手紙とセットで」
リアルの指摘に、翔華は大きく息を吐いた。
「第六寮の少女は、真実を見通す不思議な目を持っている。大袈裟な噂だと思ってたんだけど。いや、これは驚いたよ。そんな第六寮の少女に聞きたいんだけど」
「ん、なに?」
「来訪者って本当にいると思う? その、なんというか、超自然的な存在として、さ」
「どうだろ。いるかも知れないわよ。いないって根拠はないんだし。でもね。この一連の事件は人間の仕業よ。間違いなく。だから呪いなんて有り得ない。これで安心できた?」
「はは、これもお見通しか。少し安心したよ」
そう言って頬を緩める。
「君の指摘通りさ。今朝、この封筒が部屋に投げ込まれてたんだ」
ジャージのポケットから、シンプルな封筒を取り出す。
表には三杉翔華様へと記されていた。裏に差出人の名前はない。
「愛想のない手紙ね。不審に思わなかった?」
「良くも悪くも手紙は良く貰うんだ。差出人が書かれてないのも少なくないし」
「陸上部期待の超新星ともなれば、ファンレターやラブレターも多いってことね。開けていい?」
「もちろんさ」
中は白い便箋が一枚。
広げると手書きではないワープロで打たれた無機質な文字が並んでいた。
色はやはり赤色。
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三杉翔華へ
ランニング中に、ガーデンスペースの裏に行け。
そこにある人形の胸ポケットに入ってる紙を、同封されている紙と入れ替え、
風紀委員に連絡しろ。
この指令を守らなければ、狂気と絶望が降りかかると思え。
お前だけでなく、他の部員達にもだ。
無論、この手紙のことを口外しても同じだ
七人目より
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