十月十八日(金) -7-
「この大きさの物が燃やせて、燃料が豊富にある場所。それに人目に付かないところ。となると、焼却炉だね。小型の方の」
「正解よ。悪くないわ」
ここから西。
リアルの住む第六寮を超えた場所にあるのが発電施設と焼却炉だ。
焼却炉は二基。
生活ゴミの処分用と、生徒会や職員室から出る書類を焼却する為の物である。
前者はかなり大型。アカデミー生一万三千人のゴミを燃やすのだから当然だろう。
地上部分にゴミを投棄する口があり、そこからベルトコンベアで地下の焼却スペースに運ばれる。
ちなみに、ここで発生した熱は発電に利用されている。
後者は、二メートル立方のレンガ造り。
壁の一つに施錠できる金属製の大きな扉が付いており、そこから処分する書類を中に運び込んで火を点ける。
生徒会や職員室から棄てられる書類には個人情報が書かれている場合もあり、情報が漏れないようにこちらで処分するのだ。
「大型焼却炉の稼動は週二回。小型の方が二週に一回くらいよね」
「正確なスケジュールは生徒会で確認できるけど、そんな感じだったと思う」
「来訪者が人形をこんがりと焼き上げるには、焼却炉を使わざるを得なかった」
「焚き火とかじゃ目立っちゃうもんね」
「でも、その時に焼いたのは人形だけ」
「服ならバケツに入れて、火を点けるだけで十分だもんね」
「うん。誰も近寄らない時間帯に忍び込んで燃やした。ってところかな」
「でも、それだと謎が出てくるよね」
「謎ってどんな?」
思考を半歩先回りしたハチに、リアルがわざとらしく尋ねる。
「焼却炉の鍵だよ。施錠されてるはずだから」
「よしよし、鋭いぞ。そうね。最初の人形が見つかった屋上。二体目が見つかった美術資料室。そして、今回の焼却炉。この三つに共通する謎は、鍵。焼却炉の鍵が、他の鍵みたいに管理されているのなら、来訪者は同じ方法で手に入れたと考えられるわね」
ハチが頷く。
「最後に来訪者の手紙なんだけど、何か気になる点はない?」
「いつもと同じような手紙だよね。それ以外には特に……」
「そっか。まあ、ここまで分析できたのなら、ギリギリ及第点かな。自信を持っていいわよ」
「手紙からどんなことが解るの?」
「あの手紙は貴重よ。お陰で繋がらなかった点が繋がったんだから」
「え、それって……」
「詩方、三杉を連れてきたぞ」
二人の会話に真樹が割り込んできた。
「あらら、タイムオーバーになっちゃった。まあ、もうちょっと考えてみて」
ハチにそう告げると、真樹とその隣に立つ細身の少女、三杉翔華に軽く右手を上げた。
「始めまして。アタシは詩方真実。リアルって呼んでね」
「よろしく」
リアルが差し出した右手を、翔華が握り返す。
翔華は長身の少女。意思の強さを感じさせる上がった目尻。化粧をすれば、女の子らしさが引立つ顔立ちだ。
しかし、今は練習中のジャージ姿。
しかも髪を首の後ろで硬くゴムで纏めおり、アスリートとしての面が強調されていた。
「百メートル十一秒台の陸上部期待の星よね。同じアカデミー生として、陰ながら応援させてもらってるわ」
「ありがとう」
「貴重な練習時間を割かせて悪いんだけど、少し聞きたいことがあるの。いい?」
「もちろんさ。私だって下らない事件の早期解決を望んでいるから」
「そう言ってくれると助かるわ。じゃあ定番だけど、この人形を見つけた時の状況を教えてもらえる?」
「風紀委員の人に話したのと繰り返しになっちゃうけど。毎朝、登校前にランニングをしてるんだ。で、今朝走ってると、何かが転がっているのが見えて」
「近付いてみたら、この人形だったと」
「まあ、簡単に言うとそんな感じだね」
「ランニングって一人で走ってるの? 他に陸上部の人は?」
「自主練なんだ。人と同じ練習をしてるだけじゃ勝てないから」
「やっぱり日々の積み重ねが大切なのね」
「努力が結果に繋がるとは限らないけど、少なくとも努力なしで結果を得ることはないよ」




