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十月十八日(金) -2-

                    ※ ※ ※

 

 

 六畳間、ハチとリアルは向かい合って座っていた。

 上座にリアル、下座にハチという定番の配置である。

 二人の間にあるのは、ただ沈黙。

 ゆったりと湯気を上げる湯呑みを眺めながら、お互いが言葉を探していた。

 

 ハチは素直に尋ねるのが一番だと思った。

 下手な気遣いができる人間ではないし、リアルも望まないだろうと思ったからだ。

 大きく息を吸い。質問を口にする。

 

「その瞳のことなんだけど」

「この目のことなんだけどね」

 

 同時。あまりにぴったりのタイミングだった。

 

「もう、アンタって間が悪いわね」

「違うよ。私の方が少し早かったもん」

「見え透いた嘘は言わないの。アタシが早かったでしょ」

「そんなことないよ。絶対私のが早かったんだから」

「それを客観的に証明できる物証があんの?」

「そ、それならリアルだって、証拠とかあるの?」

 

「アタシよ」、「私だよ」という下らない応酬をしばらく続けた後、むっつりと黙り込んだ。

 ぶうっと頬を膨らますハチに、不機嫌な顔で対抗するリアル。

 数秒間睨み合った後、揃って吹き出した。

 

「あはは。バカじゃないの。どっちが先とか関係ないでしょ?」

「えへへ。それならリアルもだよ。変に意地になっちゃって」

 

 重苦しかった空気が軽くなった。

 

「アタシね、普段はコンタクトを入れてるの。視力矯正用じゃなくて、虹彩の色を変える特別な物なんだけど」

 

 そう言って、コンタクトを外す。

 

「あ」

 

 ハチが息を微かに息を飲んだ。

 

 リアルの瞳の色が変わったからだ。

 見慣れた黒から、透き通ったグリーンに。

 

「葵の人間には、珍しい色でしょ。アタシ的には綺麗だから気に入ってるんだけど」

「うん。凄く綺麗だと思う。でも、その瞳だと……」

「アカデミーには入れない。って言いたいのね」

 

 アカデミーの入学審査は厳しい。

 学力はもちろん、親族の思想や宗教によっても厳しく制限される。

 アカデミー生は未来の葵を担う人材、葵の人間として相応しくなければならない、というのが理由だ。

 そして、それは外見にも求められる。

 リアルのように葵人らしくない瞳を持つ生徒が、アカデミーに入学できるはずがない。

 

「入学してから、髪を染めたりする生徒もいるのにね。古くてバカらしい慣習だと思わない?」

「確かに黒髪が望ましいとされてるけど、校則で禁止されてるわけじゃないもんね」

 

 そもそも現生徒会長の藪坂彩音が茶色に染めているくらいだ。

 

「ね、ハチ」

 

 言葉を止めて、一呼吸置いた。

 

 リアルのただならない雰囲気に、ハチは静かに続きを待つ。

 

「アタシが葵の人間じゃないとしたら。ううん、そもそも人間じゃないとしたらどうする?」

「人間じゃないって……」

 

 リアルの問いが何を意味しているか解らなかった。

 ただ、彼女の顔を見る限り、それが冗談の類でない事だけは理解できた。

 

「誰にも言わないって誓えるなら、アタシの秘密を教えてあげる」

 

 神妙な面持ちでハチが頷く。

 

「誰にも内緒よ。アタシ、実は天使なの」

「は?」

 

 予想を遥かに超えたカミングアウト。流石のハチも呆れる。

 

「真面目に聞いてたのに」

 

 

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