十月十八日(金) -2-
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六畳間、ハチとリアルは向かい合って座っていた。
上座にリアル、下座にハチという定番の配置である。
二人の間にあるのは、ただ沈黙。
ゆったりと湯気を上げる湯呑みを眺めながら、お互いが言葉を探していた。
ハチは素直に尋ねるのが一番だと思った。
下手な気遣いができる人間ではないし、リアルも望まないだろうと思ったからだ。
大きく息を吸い。質問を口にする。
「その瞳のことなんだけど」
「この目のことなんだけどね」
同時。あまりにぴったりのタイミングだった。
「もう、アンタって間が悪いわね」
「違うよ。私の方が少し早かったもん」
「見え透いた嘘は言わないの。アタシが早かったでしょ」
「そんなことないよ。絶対私のが早かったんだから」
「それを客観的に証明できる物証があんの?」
「そ、それならリアルだって、証拠とかあるの?」
「アタシよ」、「私だよ」という下らない応酬をしばらく続けた後、むっつりと黙り込んだ。
ぶうっと頬を膨らますハチに、不機嫌な顔で対抗するリアル。
数秒間睨み合った後、揃って吹き出した。
「あはは。バカじゃないの。どっちが先とか関係ないでしょ?」
「えへへ。それならリアルもだよ。変に意地になっちゃって」
重苦しかった空気が軽くなった。
「アタシね、普段はコンタクトを入れてるの。視力矯正用じゃなくて、虹彩の色を変える特別な物なんだけど」
そう言って、コンタクトを外す。
「あ」
ハチが息を微かに息を飲んだ。
リアルの瞳の色が変わったからだ。
見慣れた黒から、透き通ったグリーンに。
「葵の人間には、珍しい色でしょ。アタシ的には綺麗だから気に入ってるんだけど」
「うん。凄く綺麗だと思う。でも、その瞳だと……」
「アカデミーには入れない。って言いたいのね」
アカデミーの入学審査は厳しい。
学力はもちろん、親族の思想や宗教によっても厳しく制限される。
アカデミー生は未来の葵を担う人材、葵の人間として相応しくなければならない、というのが理由だ。
そして、それは外見にも求められる。
リアルのように葵人らしくない瞳を持つ生徒が、アカデミーに入学できるはずがない。
「入学してから、髪を染めたりする生徒もいるのにね。古くてバカらしい慣習だと思わない?」
「確かに黒髪が望ましいとされてるけど、校則で禁止されてるわけじゃないもんね」
そもそも現生徒会長の藪坂彩音が茶色に染めているくらいだ。
「ね、ハチ」
言葉を止めて、一呼吸置いた。
リアルのただならない雰囲気に、ハチは静かに続きを待つ。
「アタシが葵の人間じゃないとしたら。ううん、そもそも人間じゃないとしたらどうする?」
「人間じゃないって……」
リアルの問いが何を意味しているか解らなかった。
ただ、彼女の顔を見る限り、それが冗談の類でない事だけは理解できた。
「誰にも言わないって誓えるなら、アタシの秘密を教えてあげる」
神妙な面持ちでハチが頷く。
「誰にも内緒よ。アタシ、実は天使なの」
「は?」
予想を遥かに超えたカミングアウト。流石のハチも呆れる。
「真面目に聞いてたのに」




