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十月十七日(木) -9-

 リアルの聞きたい事は解った。

 すらりと背の高い美佳子と、やや小柄な部類に入る純理。

 

「暗くてはっきり解らなかったし、でも、もうちょっと身長差があったような」

「ま、二人組みと身長差だけで見たら、容疑者は盛り沢山か」

「それに米川先輩とは、直前に話してるし、あんな酷いことする人とは思えないよ」

 

 穏やかな話し方と、安心感を与える微笑。

 そんな純理があんな暴力を振るうとは考え難い。

 

「しかし、人は見かけによらないとも言う。それほど親しいわけでもあるまい」

「それも一理あるわね。怖い顔してるのに、恋愛物の少女漫画が大好物って子もいるしね」

「な!」

 

 真樹が言葉を飲み込んだ。

 その頬がみるみる赤く染まっていく。

 

「え、まさか。それって鷹壱先輩のこと?」

「うるさい! 人の趣味に口を挟むんじゃない!」

 

 ぷいっと顔を逸らす真樹は、やはり歳相応の多感な少女なのだ。

 しかし、そのあまりに似つかわしくない反応に、穏やかな笑いが起こる。

 

「あはは。とりあえず、今日のところは、あの二人が来訪者事件に関わっているってのが……解った……だけ……でも……」

 

 急にリアルの言葉が途絶え始めた。

 

「リアル? どうしたの?」

 

 ハチが目を見開く。

 

 リアルは右手で頭を押さえて、浅い息を繰り返していた。

 頬からは完全に色が失せている。

 ぶるぶると小刻みに震える身体が、彼女のただならぬ状態を雄弁に語っていた。

 

「リアル!」

「おい、詩方!」

 

 近寄ろうとする二人を左手で制する。

 

「心配、要らない、から。ちょっと、持病の、発作、がね」

 

 力ない手でポケットからピルケースを取り出し、中のカプセル錠を五つ口に押し込む。

 

「これで、大丈夫、だから。悪いけど、今日は、もう、部屋に、戻らせて、もらう、わ」

「でもでも」

 

 ほんの数分前からは想像できない弱々しく途切れた口調に、ハチは焦って何もできない。

 

 あたふたするハチを押し退けて、真樹がリアルの小さな身体を抱きかかえた。

 

「保健室に運べばいいのか?」

「ちょっと、アタシは、子供、じゃない、っての」

 

 身体を捩って逃れようとするが、その動きは余りに小さくなんの効果もない。

 

「持病だから、もう薬も、飲んだし。部屋で、寝てれば、治る」

「解った。お前の部屋でいいんだな」

 

 真樹の確認に、リアルが微かに頷く。

 

「よし、行くぞ」

 

 ハチに一声掛けて駆け出す。

 廊下を走り抜け、階段を一気に下る。

 

 速い。

 荷物のないハチでも、ついていくのがやっとだ。

 

 あっという間に校舎の前を通り過ぎ、寮の敷地に辿り着いた。

 やや息が跳ねつつあるが、それでもまだ十分な速度を保った走り。

 アカデミーナンバーワンの体力は伊達ではない。

 

 それに比べてハチは完全に顎が上がっていた。

 差もどんどん広がっていく。

 

「頑張れ! 急げ!」

「はい!」

 

 普段ならギブアップするところだが、リアルを案じる心が身体を支えてくれる。

 まだ走れる。


 五つの棟を横目に過ぎ、ガーデンスペースを通り抜けると、古びた木造の建物が見えてきた。

 

 真樹は薄いドアの前で立ち止まると、乱れた息を整えた。

 

 遅れる事、約一分。ハチが駆け込んできた。

 寮に着いたという安心感から崩れそうになる身体を真樹の腕が支える。

 

「良く頑張った。偉いぞ」

「はぁはぁはぁ、ありがとう、はぁはぁ、ございます」

「だが、休むのはもう少し後だ。詩方の部屋はどこだ?」

「はぁはぁ、一階です。一番奥です。はぁはぁ」

 

 真樹が押し退けるように肩でドアを開けると、薄暗い廊下をバタバタと走る。

 古い木の床が乱暴な来客に不快な喚きを上げた。

 

 最深部。

 リアルの部屋の前で立ち止まる。

 

「八房、ドアを開けろ」

「はい」

 

 しかしノブを回しても開かない。

 


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