十月十七日(木) -7-
「アンタさっき変なこと言ってたわね。このネガを借りていたとかなんとか」
「はい。先週末に無理を言って借りたのです。それを今日の昼休みに返したのです」
「ふざけるな! そんなことが信じられるか!」
声を荒げる真樹にリアルが眉を潜める。
「もう、うるさいわね。ハチ、出番よ」
「ほえぁ?」
急な指名に間抜けた声で答えてしまう。
「あの猛獣をちょっと黙らせてきて」
「そんなの無理だよ。できるはずないよ」
「いいから、ほら。早く早く。急いで」
こんなの酷いよ、と不満を漏らしつつも、仕方なく真樹の方に近づく。
「あの、鷹壱先輩」
睨まれた。回れ右して逃げたくなるが、とりあえず我慢。
「あの、えっと、落ち着いてください」
「自分は十分に落ち着いている!」
怒鳴られた。泣きそうになるが、更にぐっと我慢。
「ここはリアルに任せて……」
「それはどういう意味だ? アイツに任せて引っ込んでおけと言いたいのか?」
「そ、そんなことは言ってないですよ。ただリアルの邪魔にならないように」
「ほう、自分が邪魔か。面白い意見だな」
どこをどう間違ったのか。ハチは怒りの矛先が自分に向いてしまったのを認識した。
懸命にフォローしようとするが、どんどん悪い方に転がっていく。
「これで少しは静かになったわね。で、さっきの話だけど、あのネガを借りてたって?」
話を戻して、リアルが純理に尋ねる。
「ええ、先週末に資料として借りたのです」
「部長さんは、そんなこと一言も言ってなかったけど」
「忘れていたのでしょう」
さも当然と言ってのける。
「ああ、うん。そうなんだ。ドタバタしててさ。忘れてたよ」
「そんな大事なこと、忘れるもんなの?」
「絶対に忘れない、なんて言い切れないと思いますけど」
「そうだよ。ウチはしょっちゅう物忘れしちゃうんだよ」
「そう言ってもね……」
「では貴方は、わたくしが嘘をついていると証明できるのですか?」
純理の一言にリアルが黙り込んだ。
数秒間、思考を巡らせた後、口を開く。
「借りた人間と貸した人間がいる。その二人が揃っている限り、疑う余地はないわね」
愛らしい子猫の表情を浮かべて、小さく肩を竦めた。
「疑ってごめんね。アタシの勘違いだったみたい」
あっさりとした言葉と共に、眼前の二人に深々と頭を下げた。
「あ、いや、ウチはそんなに気にしてないから」
「誰にでも間違いはあります。でも、これからは気をつけてくださいね」
やや面食らいつつも、美佳子と純理が答える。
「では、わたくし達は失礼させてもらってよろしいですか? ちょっと大事な話があるので」
「好奇心で聞かせてもらうんだけど、なんの用があるの?」
「神有際で怪談会を予定しているのですが、パンフレットの作成をお願いしたいと思いまして。あ、怪談会というのはですね……」
「知ってるわ。ジューン・ヨネカワでしょ。漫画描いたり、トークショーしたりしてるのよね」
「おや、ご存知でしたか。実は神有祭でも怪談会をやりますので、お暇でしたら是非」
「そうね。最近、オカルトに興味が出てきたところだし、一度聞かせてもらうわ」
「はい、よろしくお願いしますね。では、失礼します」
優雅に会釈すると、部屋を出た。
「あのさ、ホントに今日のことは気にしてないから。じゃあ」
慌ただしく告げて、美佳子が後を追う。




