十月十七日(木) -6-
「な、なんでそれを」
リアルの指摘に反射的に声が漏れた。
慌てて口を噤むが、時既に遅し。
「状況を考えると、この部屋を荒らした人間は昼休みに来たんだと思ってね。さて、一応だけど反論を聞いておこうかな」
「ぜ、全部ただの屁理屈じゃないか!」
「あら、アタシの分析を屁理屈扱いする気? 失礼ね」
「だって、そうじゃん。何か証拠でもあるの!」
「ほらきた。往生際の悪い犯人が口にする定番台詞だよ」
リアルが深く重い溜息をついた。
「でも、それは一理あるかな。残念ながら、物証は今ないのよね」
「ほら、やっぱり。ただの理屈を捏ねてるだけじゃん。まったくバカにしてさ!」
勢いを得た美佳子が言い放った。
「人を犯人扱いするなんてさ。絶対に許さないよ、生徒会に訴えて……って、何がおかしいの!」
くすくすと笑いをこぼすリアルに、美佳子が吠える。
「いやいや、ごめんごめん。ついついね」
「その態度、人をバカにするにもほどがあるよ!」
悪びれる様子のない口先だけの謝罪が、更に美佳子の怒りに油を注ぐ。
「あはは。まあ、そう怒らないでよ。言ったでしょ、今は物証がないって、だから探しに行ってもらってるの。アンタの鞄からある物を、ね」
美佳子の動きが止まった。
高潮していた頬から、瞬く間に血の気が引いていく。
「そして、見つけて戻ってきたというわけだ」
女性にしては低い声と共に、百八十センチを超える分厚い身体が部屋に入ってきた。
「鷹壱先輩!」
「まったく遅いわね、ハラハラしちゃったわよ」
ハチとリアルの声が迎える。
「人を引っ掛けるのは好きではないがな」
そう言いながら、手にしていたビニール袋を美佳子の方に向けた。
「お前の鞄の中にあったネガだ」
落ち着いた、それでも圧力のこもった口調だった。
それは風紀委員長としてアカデミーの風紀を維持してきた自負と自信、責任感が生む物に他ならない。
「何故、これをお前が持っていたのか。納得のいく説明を聞かせてもらおうか」
「そ、それは、その、あの」
勢いの削がれてしまった美佳子に抗する術はなかった。
「なんか、美味しいトコを取られちゃったわね」
ハチにこっそり愚痴るリアルだが、その表情に不満は見えない。
「ダメだよ、そんな言い方しちゃ。でも、これで一段落だね」
ハチが胸を撫で下ろしかけた時だった。
「そのネガはわたくしが借りていたものです。今日の昼休みにお返ししたのですよ」
ドアから声が飛び込んできた。
穏やかでどことなく人を安心させる色を含んだ物だった。
全員が一斉に視線を向ける。
その先に立つのは、福与かで小柄な少女。
「純理」
美佳子がほっと安堵の息をついた。
「米川先輩」
「あら、八房さん、先日はどうも」
ゆっくりと優雅に会釈した。
慌ててハチも頭を下げる。
「なんだ、お前。ここは立入禁止だ」
「解っております。だから立ち入ってないではありませんか」
ギロリと睨みつける真樹の視線を優しい微笑で受け流す。
純理は部屋の外に立っている。彼女の主張は正しい。
それ故に真樹の癇に障ったのだろう。
「邪魔をするなと言っている! 誰か、このバカを摘まみ出せ!」
感情に任せて、外で待機している風紀委員に指示を出す。
「はい、ちょっとストップ」
そこでリアルが割って入った。
「アンタ、米川純理ね」
「あら、年長者をアンタ呼ばわりするのは感心できませんよ」
「いいの、アタシは気にしないから。それよりもちょっと聞かせてもらえる?」
そう言って、純理を室内に招き入れた。




