十月九日(水) -5-
「神有祭は二十五日から、あと半月が正念場よ。沙耶」
顔を引き締め、真剣な目を向けた。
「はい。全力を賭して、会長の期待に応えたいと思います」
「会長の期待に、か。なんか寂しい言い方だよね」
「では、こう言いましょう。親友である彩音の為に、私は全力を尽くします」
「うん、当てにしてるわよ」
沙耶の能力は高い。
柔軟な発想力と冷徹な決断力を兼ね備えた逸材。
中等部はもちろん、高等部を含めても彼女以上の内政力を持つ者は見当たらない。
その彼女の下、本土からの来客を増やす手を次々に実行している。
旅行会社との提携。インターネットを利用した広告活動。
来客予定者数を見る限り、着実に効果を上げてはいる。
「会長?」
つい考え込んでしまった。途切れた会話を手繰り寄せる。
「ううん、持つべき者は親友だなって思ってさ。できれば愛する彩音の為にって言って欲しかったけど」
「あ、あれは初等部の頃の、その、気の迷いです。確かに、広い意味で、家族愛とか友情みたいな愛情は、今もありますが。そもそもですね、幼少の頃に同性に憧れるというのは、統計的に見てもまったく普通のことですし、その、私自身がそういう倒錯した趣味を持っているわけではなく、従って、至極普通のですね。って、何がそんなにおかしいんですか!」
頬を精一杯膨らまして笑いを堪える彩音に声を荒げた。
「ごめんごめん。ひひひ」
「まったく、少しは自覚が出てきたかと安心したのに」
「ひひひ、悪かったって」
付属してくるいやらしい笑い方に、何か反論をと思いつつも、それは彩音を一層喜ばせるだけと踏み留まった。
息と共に上がった体温を吐き出す。
少し冷静さが戻ってきた。
泣きそうなほどの勢いで、文字通りお腹を抱えている彩音。
こんな彩音を見るのは久しぶりだった。
会長になって五ヶ月。
生徒会の仕事に追われ、眉間に皺を寄せる日々が続いていた。
「彩音はこうでないと」
「ひひ、なに?」
呟きは届かなかったらしい。
聞き直してくる彩音に、わざとらしく眼鏡をくいっと上げた。
「いえ、別に。ほら、いつまでもバカみたいに笑ってないで」
「はいはい」
ひとしきり笑い終えると、満足気に大きく伸びをしながら答えた。
「それにしてもカーテンくらい開けたらどうです? 部屋が薄暗いと気分まで滅入りますよ」
「ね、沙耶」
やれやれと言った感じで窓に向かう沙耶を呼び止めた。




