十月十七日(木) -4-
「え、いや、普通はそう思わない?」
「ふうん、アタシには全然違うメッセージに見えるんだけど。まあ、いいや。ところでさ、頼んでおいたネガって用意できてる?」
「いや、それが、用意するつもりだったんだけど。放課後、来てみたらこの有様でさ」
「悪いが急用を思い出した。少し席を外させてもらうぞ」
真樹が会話に割り込んできたかと思うと、それだけ残してさっさと部屋を出て行ってしまう。
「まあまあ、風紀委員長も忙しいみたいなのよ。色々とね」
唖然としている美佳子の肩を叩いて、注意を引き戻した。
「頼んでおいたネガは、この散らばった中にあるはずなのね。探すの手伝ってくれる?」
「探すって、この中にネガあるなんて思えないんだけど」
「あら、どうして?」
「来訪者の目的が捜査の妨害にあるなら、あのネガを奪いにきたのかなって思わない」
「それは興味深い推測ね。でも、それだと引っ掛かるわね」
「どこが?」
「どうして散らかす必要があったのか。ね、不思議に思わない?」
「そんなのネガを探してたからに決まってるじゃん」
「残念だけど、それは有り得ないの」
「これだけ沢山の中から探すんだよ。引っ繰り返して探すしかないじゃない」
「そんな必要ないわよ。だって誰でも簡単にお目当てのネガを探せるんだから」
しゃがみ込んでネガの入ったビニールをいくつか拾う。
更に近くに転がっていた長方形の小箱も手に取った。
「ほら、見て。ここにマジックで書いてあるのよ」
ビニールの端っこに書かれている文字を、ほっそりとした指先でつつく。
それを目にした美佳子が、大きく目を見開き固まった。
「これに書かれているのは①という文字と、先月末の日付。次のは、②という文字と、その前日の日付。あ、次は⑤で同じ日付。これって数字は撮影した新聞部、日付は撮影日よね」
美佳子が微かに頷く。
「なんで近い日付の分が集まってるんだろう。ね、どうしてかな? 散らかした後に日付が近くなるように集めたからなのかな?」
「それは日付毎に整理してあるから、だよ」
美佳子の声は消え入りそうなほど細く頼りない物だった。
「そう、日付毎に分けて、この小箱に入れてあるからよね。じゃあ、次の疑問に答えられてもらえる? 散らかしてからお目当てのネガを見つけるのと、整頓されている中から見つけるのと、どっちが楽だと思う?」
「そりゃ、整頓されている状態で見つける方が簡単だけど。でも、それがなんだって言うのさ! ネガがなくなってるのには変わりないじゃん! ネガを取ってから散らかしても、散らかしてからネガを取っても、全然同じでしょ!」
美佳子の語調が荒くなる。
「うん、その通り」
意外なほどあっさりと主張を認めた。
そこで美佳子からハチに視線を移動させる。
「ハチ、惜しかったね、もう一息だったのに」
数刻前のリアルの出題に対し、ハチが導き出した答えは、ここまでまったく一緒だった。
「前にも言ったけど、この世界のほとんどは知恵と分析で割り切れる。でも、今回は割り切れなかった。どうしてだと思う?」
「え?」
「それはね。推論のどこかにミスがあるってことなの」
にぃっと犬歯を見せ、
「じゃあ、模範解答にいってみよっか」
実に嬉しそうに宣言した。




