十月十七日(木) -2-
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分厚いカーテンの掛かった室内を、弱い蛍光灯が照らしていた。
教室と同じくらいの広さの床は、正に足の踏み場もない状態だった。
一面に散らばったネガや長方形の小箱。現像が終わった写真もあれば、ケースに入ったフィルムも転がっていた。
壁際に並んでいるはずの荷物棚達も引き倒され、中身をぶちまけられている。
「第一発見者は第五新聞部の生徒だ。放課後、明日の準備の為に部屋を開けると、この有様だったそうだ」
「ふうん。なるほどね」
真樹の簡潔な説明に、リアルが頷く。
商用部棟の二階にあるこの部屋は、第一から第五までの新聞部が、主にネガや原稿の保管室として使用している部屋だった。
普段のこの時間なら、準備をする新聞部の部員が忙しなく出入りしているはずだ。
しかし、入室規制が敷かれた今、室内にいるのはリアル達三人だけ。
「正確な時間は解る?」
「十六時過ぎだと聞いている。それまでにこの部屋を使った人間はいないそうだ」
「で、あれがメッセージなわけね」
正面、飾り気のないコンクリートの壁を指差す。
そこに大きく記されているのは、毒々しい赤ペンキで書かれた文字だった。
「これ以上下らぬ詮索を続けるな。これは警告だ。来訪者より、か。センスの欠片もないわね。来訪者様とやらも、ジョークを学ぶべきだと思わない?」
「発見者の生徒は今、保健室だ」
無駄口に付き合う気はないのだろう。
真樹が次の情報を告げる。
「かなりショックを受けたようだ。休んでもらっている」
「そりゃ、びっくりしたでしょうね。気の毒な話」
「落ち着けば話ができると思うが」
「いいわ。別に聞きたいこともないし」
足元のネガを拾い上げた。
小さなビニールに小分けされており、ビニールの端には①という文字と先週の日付がマジックで記入されている。
次の一つを拾う、二日後の日付と③の文字。
「まったく、期待外れもいいとこね」
ぼそりと呟いた。
傍らのハチが、その真意を尋ねようと口を開きかけた時。
「ね、風紀委員長。事情を聞きたい人がいるんだけど、呼んで来てもらえる?」
「仕方ないな。遺憾ではあるが貴様に協力するよう頼まれている」
「随分と協力的な態度ね。嬉しくなるわ」
「で、誰だ」
「桝村美佳子。第四新聞部の部長さん。今頃なら部室にいると思うんだけど」
「部室なら同じ階だ。直接行けばいいだろうが」
「風紀委員に連れてきてもらう方が円滑に進むのよ」
「仕方ない。会長直々に協力を頼まれているからな」
心底しぶしぶ感を出しつつ、部屋の外に待機していた風紀委員の一人を呼び付ける。
リアルの視線が真樹からハチに移動した。
「さて、ここで問題よ」
「ほへ?」
「賢明な来訪者様は迂闊にも、大きなミスをしてしまいました。それはなんだと思う?」
「そ、そんなのいきなり言われても」
「制限時間は部長さんが来るまで、ね」
一方的にそう告げると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
※ ※ ※
数分後、風紀委員に連れられて美佳子がやってきた。
その顔は緊張で強張っている。
「うん、正解ではないけど、いい線いってるわね。ギリギリ合格ラインかな」
ハチと話し込んでいたリアルが美佳子の方を向いた。
途端に人懐っこい笑みになる。
つられて美佳子の口元も微かに緩んだ。




