十月十七日(木) -1-
十月十七日(木)
アカデミー中等部南門を出て、東に数分歩くと三つのクラブ棟。
それを越えて、緩やかな下り坂を十分も進めば、白い外壁の巨大な筒状の建物が見えてくる。
地下二階、地上五階。敷地面積も中等部校舎の倍以上はある。
これがアカデミーの図書館だ。
図書館は初等・中等・高等部が共同で使う施設の一つ。
蔵書量は本土の国立図書館に匹敵する規模である。
分厚い専門書の類はもちろん、絵本から少女漫画。ティーンズ向けの娯楽小説もあれば、翻訳物の空想科学小説まで。
あらゆる分野の本が詰まっている。
生徒達は毎週二冊まで無料で本を借りる事ができるが、それ以上の貸し出しには、一冊につき百円のレンタル料がかかる。
娯楽の少ないアカデミー生の足元を見た商売ではあるが、そのお金は図書館で働く生徒達のアルバイト料や本の購入費用として有効活用されており、異議を口にする者はいない。
「ああん、もう! 一冊につき百円なんて、ふざけてるわよ!」
いや、ごく稀にいる。
だだっ広い道をアカデミーに向いながら、リアルが大声で不満を撒き散らす。
その両手には目一杯に膨らんだ紙袋。中身は図書館で借り込んだ大量の本だ。
「知的欲求に対し、対価を求めるなんてナンセンスよ。ね、ハチもそう思うでしょ」
「そうだね。重いね」
リアルの後ろを歩くハチが答えた。
彼女の両手も大きな紙袋で塞がっている。
三つ目の人形が見つかった翌日、木曜の放課後。
事件の捜査と張り切るハチを待っていたのは、図書館で借りる本の運搬だった。
「そもそもさ、なんでもお金ってのが気に入らないのよね。ね、ハチもそう思うでしょ」
「そうだね。遠いね」
元気一杯に愚痴るリアルに比べて、体力の乏しいハチは完全に息が上がっている。
行きが下りという事は、必然的に帰りは上り。
穏やかでも重い荷物を手にした状態では、なかなかの重労働。
しかも、足元は昨夜遅くから昼過ぎまで降り続いた雨で濡れており、体力を余計に使う。
「まだまだ遠いよ」
恨めしそうに長い坂を見上げた。
視線の先は曇りもない空。雨上がりの澄んだ青に輝いている。
少しだけ気分が軽くなった。
「こんなに一杯借りてどうするの?」
リアルが借りた本は五十冊以上。全てがオカルト関連。
分厚い専門的な物から、心霊写真特集という低俗な物。オカルトに分類するには微妙な退魔物のノベルや漫画まで多種多様だ。
「どうするって、読むに決まってるでしょ」
「こんなに沢山?」
「アタシさ、オカルトに興味なんてなかったの。だから少しでも読んでおこうと思ってね。付け焼刃でもないよりはマシでしょ」
「でも、これだけの本を読むのは、かなり時間が掛かるよね」
「一週間で読み終わるわよ」
有り得ない発言にハチが目を丸くする。
漫画ですら、こんなに読めない。しかも、分厚くて難解そうな専門書まであるのだ。
リアル特有の冗談かとも思ったが、そんな様子はない。
「アタシは本を読み慣れてるからね」
ハチの驚いた顔に、説明を継ぎ足した。
「ま、つまんない話はこれくらいにして、新聞部に寄って帰るわよ」
「ひょっとしてネガを借りに?」
「うん。昨日連絡しておいたの。放課後、取りに行くってね。どんな準備をしてくれてるのか、すっごく楽しみなのよ」
「ね、それってどういう……」
説明を求めようとしたハチだったが、アカデミーの方から走ってくる大柄の生徒に気が付いた。
「鷹壱先輩だ。なんか凄く急いでいるみたい」
真樹の方も二人に気付いた。
大きく手を振りながら、名前を叫ぶ。
「なんだろ」
「どっちにしろ、面白くなってきたみたいね」
リアルがにぃっと犬歯を見せた。




