十月十五日(火) -13-
リアルの言葉に真樹が頷く。
「三つ目の人形が見つかった」
「やっぱりね。今日だと思ったわ。場所は?」
「食料搬入用の駐車場だ。背中にはタイヤで轢いた跡が付いていた」
「つまりは、下らない伝承通りってわけね。メッセージは?」
「二体目と同じだ。胸ポケットにこれが入っていた」
小さく折り畳んだ紙をリアルに手渡す。
相変わらず黒ずんだ赤色に、鮮やかな紅色の文字。
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親愛なるアカデミーの皆様へ
三人目の愚者はその屍を晒した。
残りは三人。愚者は、我が路を開く贄となる。
これは変えられない運命なのだ。
確実に私は近づいている。光溢れるそちらの世界に。
もうすぐ、もうすぐなのだ。
七人目より
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「光溢れる世界だってさ。こっちだって暗くて嫌なことは山盛りであるのに。来訪者ってのも、随分とメルヘンチックなのね。羨ましくなるわ」
リアルのコメントに、ついみんな苦笑してしまう。
「もうすぐってことは、まだこっちには着いてないんだよね」
ハチがぼそりと漏らす。
その意味するところが解らず、全員がハチに注目した。
「あ、なんでもないんです。ちょっと気になっただけですから」
その視線に気付いて、両手を振って前言を散らした。
「とりあえず現場の検証くらいはしておくかな」
「この時間なら野次馬もいない。ゆっくりと調査できる」
「会長、私達も行ってみましょう」
「そうね。何か手掛かりがあるかもだしね」
四人の意見が即座にまとまった。
「あの、私も……」
「アンタはダメよ」
続こうとしたハチを、リアルが制する。
「どうして……」
理由を聞こうとしたところで合点がいった。
自分はアシスタントを辞任したのだ。
自分が捜査に加わる事は、もうできない。
来訪者への怖さで離れようとした自分を許してもらいたい。
もう一度、アシスタントに戻りたい。
でも、それを口にするのは、あまりに自分勝手過ぎるのではないか。
そんな想いが言葉を躊躇わせる。
「暗い顔すんな。今日は休んでおきなさいってことよ」
「え?」
当惑するハチに、にぃっとリアルがにぃっと犬歯を見せた。
「明日は色々と頼みたいことがあるんだから、引き受けてくれるわよね? 友達として」
リアルらしい素っ気ない一言が嬉しかった。
瞳の奥が熱くなるのを感じる。
「うん。もちろん。私、頑張るから」
「期待してるわよ。役には立たないと思うけど」
「それって褒めてるんだよね」
「それ以外にどう聞こえるの?」
えへへと笑みを返した。
「そっちも一件落着みたいね。じゃあ、いこっか」
彩音が宣言する。
「じゃあ、ハチ、行ってくる。もうすぐ先生が戻ってくると思うし、ちゃんと診てもらうのよ」
「うん。頑張ってね、リアル。それと皆さんも」
出て行く四人を見送ってからベッドに戻る。
仰向けになって、先程中断していた思考を再開した。
来訪者は、まだこちらに来ていない。
となると、昨日の連中はやはり偽者だったのだ。
来訪者の名を語り、あんな事をするなんて。
ぐらぐらと憤りが湧いてきた。
彼女達こそ来訪者の報いを受けるべきなのだ。
「そうだ。殺してやる」
がばっと身体を起こした。確かに聞こえた。
地の底から響くような重い不気味な声。
慌ただしく周囲に視線を走らせるが、室内にはハチ以外誰もいない。
そう、いるはずがないのだ。
安堵しかけた時、いきなりドアが開いた。
びくんとハチの身体が跳ねる。が。
「八房さん、調子はどう?」
白衣を着た女性、保険医の安堂だった。
色白で細身。年齢も近く、生徒達の間では人気のあるお姉さんだ。
大きく息を吐いて、ハチが緊張を解いた。
「もう大丈夫みたいです」
昨日の事件で神経が高ぶっているだけだと結論付けた。




