十月十五日(火) -12-
「言ったでしょ。不器用で頑固で可愛気がなくて、頭の回転が鈍くて類人猿に近い人間だとしても、基本的には後輩想いな人間だって」
「ほう、不器用で頑固で頭の回転が鈍い類人猿ね。お前らはそういう目で自分を見ていたのだな」
コメカミをひくつかせながら、震える声で尋ねる。
「そそ、そんなこと言ってませんよ」
「可愛気がなくて、が抜けてるでしょ。ったく記憶力はアメーバ並ね。あ、これは褒めてないから、念のため」
「貴様!」
「はい、そこまでにしといてね」
脱線しつつあった流れを彩音が強引に断ち切る。
「ハチちゃん、了承してもらえるわよね」
「もちろん、構いませ……」
「ハチ、ちょっと待って。そんなにあっさり了承できることじゃないのよ」
「それってどういう意味?」
「今、本土警察の捜査が入るということは、来週の神有祭が中止になるってことなのよ」
「そんな!」
絶句するハチ。
神有祭はアカデミーが収入を得る数少ないチャンス。
しかも、その成功は今期生徒会の最大公約でもある。
それが頓挫するという事は、財政破綻、生徒会の解任、本土強制帰還と最悪のシナリオも有り得る。
「そうでしょ。会長様」
「リアルちゃんの指摘通りよ。でもね、そんなことは言ってられないから」
「でもでも、先週からの事件だって」
「明確な意図の見えない低俗な悪戯とは違うのです。生徒会で処理できるレベルの問題ではありません。然るべき捜査を要請する必要があるのです」
沙耶の説明にハチは口をつぐんでしまう。
「会長様としては、それでいいの? 財政破綻は間違いないわよ」
「沙耶の言った通り。悪戯で済ませられる事件ではないからね」
「あの、そうなるのであれば、私は了承できません」
「やっぱり。そう言うと思った。だから、さらりと了承してもらうつもりだったのに」
恨みのこもった目をリアルの方に向ける。
「カードを伏せたまま、決めさせるのってフェアじゃないわよ」
「そんなことを言っている状況ではないのです」
沙耶の口調が厳しさを増した。
「あのあの、違うんです!」
剣呑とし始めた空気に、ハチが堪らず割って入る。
「この怪我は、その、転んだんです。リアルの寮から戻る時に。私、ガッカリちゃんだから、よく転ぶんです。それで顔をぶつけてしまって」
「ハチちゃん、その嘘はちょっと苦しいよ」
「でも、このまま神有祭が中止になるなんて、アカデミーが破綻してしまうなんて」
「そこは私がなんとかするから大丈夫。この才色兼備な会長さんに任せておきなさいって」
どうすればいいのか。
このままだと説得されて了承せざるを得なくなってしまう。
すがるような気持ちで、リアルに視線を投げた。
目が合ったところでリアルが小さく頷く。
何を言いたいのか。ハチは瞬時に理解できた。
「私、了承できません」
もう一度落ち着いた声で答える。
「だって、本土の捜査なんて必要ないですから」
「いい加減にしろ! 皆を困らせるんじゃない!」
吠える真樹に、内心ビクつきながらも精一杯の笑みを作った。
「私にはどんな事件だって解決してくれる凄い友達がいるんです。そうだよね、リアル」
「もちろんよ」
膨らみのない胸を張り、小柄な少女は事もなげに言い放った。
「アタシの瞳は常に真実を見通すの。アタシに任せておけば、あっという間に解決ね」
「バカ言うな! 探偵ごっこをしている場合じゃないんだぞ!」
「確かにリアルさんが卓越した力をお持ちなのは解っています。ですが……」
「解ったよ」
言葉を揺らす沙耶に代わって、彩音が了承を返した。
「しかし、会長」
「被害者のハチちゃんが了承しないと言ってる以上しょうがないし。ただし、期限を切らせてもらうわ。神有祭の前日までに犯人を見つける。それが条件、できる?」
「いいわよ。アタシに不可能なんてあるはずないから」
「それまでに犯人が見つからなかった場合は……」
「アタシの責任も言及されるって言うんでしょ。そのくらいは解ってるつもりよ」
「そんなのって」
不安気な顔になったハチに、リアルがぴっと細い指を突きつけた。
「ハチ、その心配はアタシにとって侮辱なのよ。しかも最大級のね」
「ご、ごめん」
「楽しみにしとくといいわ。来訪者だかなんだか知らないけど、アタシの友達に怪我させたことを、思いっきり後悔させてあげるわ」
冗談とは思えない台詞を口にしながら、悪意に満ちた表情を浮かべる。
「で、この件はこれで解決っと。最後は風紀委員長さんの件ね。大体の予測はついてるんだけど、一応聞かせてもらえる?」




