十月十五日(火) -11-
「まったく! 煮え切らない奴だな!」
怒声と共に外からドアが開けられた。
あっと思うよりも早く、巨大な掌がリアルの頭を叩く。
アカデミーで並ぶ者なしと謳われる豪腕の一撃に、小さな身体がくらくらと揺れた。
「人の交友関係に口を出すのは無粋だと思いますが」
アカデミー最高の政治力を誇るクールビューティが、真樹の傍らを抜けて室内に入ってきた。
「そこまで言われて無下に断るのは、人間としての品性を疑わざるを得ませんね」
尖った台詞を投げつつ、メガネの端っこを人差し指と中指でくっと上げる。
「友情だよ。青春だよ。やっぱり若さっていいよね。うんうん」
沙耶の後ろから、破天荒で有名なアカデミー最高権力者が、にししと歯を見せた。
「ちょっと、なんなのよ! アンタ達!」
いきなりの乱入者達に、リアルが声を上げる。
「立ち聞きなんていい趣味してるわね!」
「別に聞く気はなかったのですが」
「ドアの近くで、大声を上げていれば嫌でも聞こえる」
「っていうか、録音しておきたいくらいだったよ。いい記念になったと思うけどな」
「ったく好き勝手言ってくれるわね。アンタも、いつまで抱きついてんのよ!」
身体をよじって、腕を振り解こうとするが。
「まだ答えを聞いてないよ。ね、私と友達になってくれるの?」
「そ、それは」
ハチから真樹、真樹から沙耶、沙耶やら彩音。
当惑したリアルの視線が、ふらふらとさ迷い、最後にハチに戻る。
「解ったわよ。なってあげるわよ。まったく!」
えへへと嬉しそうなハチから、ぷいっと顔を逸らした。
「アンタがどうしてもって言うから仕方なくよ」
「うん。ありがと、リアル」
「よし! 会長権限で許しちゃうよ! そのままちゅーだ! 一気に押し倒せ!」
「彩音! 調子に乗らない!」
「もう、冗談だってば。ちぇっ、折角盛り上がっていたのにさ」
頬を膨らませて目一杯に不満を表わす彩音に、穏やかな笑いが起きる。
「やれやれ、困った会長様ね。ほら、もういいでしょ」
「うん」
ハチがようやく抱擁を解いた。
「ところで……」
リアルがコホンと小さく咳払い。
「こんなに集まってきたってことは何かあったのね」
三人が視線を交わす。誰が最初に口を開くか瞬時に決めた。
「私は八房さんの様子を窺いに来ました。朝になって意識が戻らなければ、本土の病院を手配するつもりでしたので。でも、無用の心配になりましたね。正直、ほっとしました」
沙耶の口元が僅かに緩む。
「私も似たようなもんなんだけど」
彩音の表情は逆に厳しい物に変わった。
「この件は本土に捜査を依頼しようと思ってるの。規則上、被害者であるハチちゃんの了承が必要となるから、それを取り付けにね」
「本土に依頼となると、かなりの大事になるのよね」
リアルの問いに彩音が頷く。
「これは立派な傷害事件。看過できないよ。沙耶や鷹壱先輩とも相談して決めた結論なの」
「昨晩、風紀委員を総動員して捜査したのだが、目ぼしい成果は上がらなかった。このまま時間をおけば、犯人の特定は難しくなるだろうと判断したのだ」
「まあ、アンタ達だと、この辺りが限界だしね。無能さを認めて英断を下したと評価できるわ」
「誰が無能だ! と言いたい所だが、現状では反論できんな」
「あの、先輩」
ぎりりと奥歯を噛み締める真樹に、ハチがおずおずと声を掛ける。
「私なんかの為に、その、色々と手を尽くして下さってありがとうございます」
「何を言っているんだ?」
深々と頭を下げるハチに、真樹が当惑した色を浮かべた。
「風紀委員はアカデミーの風紀を守る義務がある。しかも、自分の後輩が被害者となれば全力を挙げるのは当然だろう」
「え、でも」




