十月十五日(火) -10-
「そんな風に言われると照れちゃうな」
「アタシはね。人と話す時には常に相手の心を読んでるの。相手が何を考えているのか。言葉の裏にはどんな打算があるのか。相手を褒めたり、挑発したりして反応を見る。目や顔の微妙な動きを見る。ちょっとした動作や呼吸の変化を見る。そうやって少しずつ相手の仮面を見透かし、本性を覗き込む」
「そう、なんだ」
「そういう勉強をしてきたからね。無意識にそうなっちゃうの」
「でも、それって凄いよ。私はすぐ騙されるタイプだし。相手の裏なんて見えないもん。私もそんなことができたら……」
「最低よ」
すうっとリアルの表情が消えた。
「人間の本性なんて、薄汚い物ばかりなんだから」
冷め切った無機質な顔に、ハチがごくりと唾を飲んだ。
リアルの瞳が常に相手の心を見透かすのであれば、それはリアルが常に人間の暗部を見ている事になる。
しかも、卓越した能力を持つ彼女に、好意的な感情を抱く者は少ないだろう。
もし、彼女の言葉が本当だとしたら、彼女の歩んできた人生は、そしてこれから歩む人生は、どれほど悪意に満ち……。
「こらこら、変に考え込むじゃないの」
リアルの明るい声がハチの思考を中断させた。
「ただの冗談。そんな超能力じみたことができるわけないでしょ」
いつもの人懐っこい猫の表情だった。
「ただね、綺麗な感情を素直に出せるアンタを見て思ったの。友達になりたいなって。でも、そんなの言えないでしょ」
「リアルは意外と照れ屋さんなんだね」
「どういう意味よ、それ」
くすくすと笑うハチに、不機嫌に頬を膨らませるリアルだったが。
「でも、それが悪かったのよね」
ふうっと息を吐いた。
「怪我までさせることになるなんて。だから、決めたの。友達ごっこは、もう終わりにしようって」
「……答えてくれてありがと。じゃあ、これでお別れになるのかな」
「同じアカデミーにいるんだし、大袈裟なもんじゃないけど。ま、とりあえず元気でね」
そう残すと、踵を返した。
カーテンを開き、ドアの方に踏み出す。
「私は始めてリアルを見た時に、すっごく素敵だと思ったよ。あ、性格はちょっと歪んでる気はしたけど」
ハチの言葉にも、小さな背中は立ち止まろうとせず離れて行く。
「リアルって凄いよね。どんな謎だって、あっという間に解いちゃうし。私の見えない物が沢山見えてるんだろうなって。私が勝てることなんてないと思ってた」
リアルの手がドアに触れる。
「でも、違ったよ。私の方が負けないことがあるんだって解った」
さっとベッドから飛び降りると、そのまま一気に部屋を走りきる。
迫って来る気配にリアルが振り返った。
駆け寄ってくるハチに、その瞳を見開く。
「私は欲張りなんだ。一度手にした大事な物は、絶対に離さないんだから!」
リアルが反応するよりも早く、ハチは小さな身体をぶつかるように抱き締めた。
「ちょ、ちょっとハチ」
「折角友達になれたんだもん。私は絶対に離れないから!」
「だから! 友達ごっこは、もう終わりだって言ってるでしょ!」
「いいよ、終わりで」
少し力を抜いて、見詰め合う距離を作った。
「ごっこは終わり。これからはホントの友達だね。リアル、私の友達になってよ」
「な、なな、何言ってんの」
「ダメ? リアルは私が嫌いなの?」
「そ、そうじゃないけど」
「じゃあ、もちろんおっけいだよね」
「そういう問題じゃなくて」




