十月十五日(火) -9-
昨日、リアルの部屋を出た自分は、いきなり訳の解らない二人組みに襲われたのだ。
そして、今は保健室のベッドで眠っている。
記憶が抜け落ちているのは、気絶していたからだろう。
「リアルが運んでくれたの?」
「ううん、アタシじゃ無理だったから、風紀委員長に手伝ってもらったわ」
「鷹壱先輩が?」
「今は風紀委員総出で、犯人を捜してるわ」
腕時計で時間を確認する。
午前六時。随分と眠っていた事になる。
「気合入ってたわよ。絶対犯人を捕まえるんだって。あの顔で後輩想いの子だからね」
「先輩が、私なんかの為に……」
「相変わらず力押しの捜査だから、犯人逮捕は望み薄だけど」
リアルが意地悪そうな表情で付け加えた。
「ね、相手の顔を覚えてる? 声に聞き覚えはあった?」
ふるふると首を左右に振って、リアルの部屋を出てからの出来事を伝えた。
「犯人は二人で、来訪者を名乗っていたのね」
呟いて、大きく息をついた。
「ごめんね、ハチ」
いきなり深く頭を下げたリアルに、ハチが面食らう。
「こんな目に遭ったのは、アタシのせいよ」
「ち、違うよ。見送りを断ったのは私だし、リアルが謝るなんておかしいよ」
「そうじゃなくてさ。今回の件だって、アンタを無理やりアシスタントにしたのが原因よ。だから、アタシのせいなの。それだけは最後に謝りたくて」
「最後って、最後ってどういう意味なの?」
繰り返すハチに、リアルがくるりと背を向けた。
「アタシなんかに近づくとロクなことがないって懲りたでしょ。やっぱり、アンタは探偵ごっこしてるよりも、風紀委員をやってる方が似合ってると思うし」
「リアル、ちょっと待って」
「風紀委員長に連絡しておくわ。すぐに誰かが来ると思うから……」
「待ってよ!」
悲鳴に近い声で遮った。
お互いが言葉を失って、居心地の悪い空気になる。
「あの……」
重い沈黙を破ったのは、ハチの方だった。
「どうして、私なんかをアシスタントにしようと思ったの?」
「どうしてって、深い意味なんてないわ。ただ近くいたからよ」
特別な答えを期待していたわけではなかった。
それでも、想定した中では最も寂しく、最も当然と思える回答だった。
がっかりと肩を落としてしまう。
「なんて答えるとでも思った?」
首だけで振り返ると、アーモンド型の瞳を嬉しそうに細めた。
「違うの?」
「あったり前でしょ。そんな適当な行動をする人間に見える?」
「でも、それじゃ、どうして?」
「そうね。シンプルに言うと」
もったいぶるように、顔を前に戻した。
「綺麗だったから、かな」
意味が理解できず、ポカンとするハチにリアルが続ける。
「最初にさ、アンタに奇妙な質問したこと覚えてる?」
「本の話かな? 世の中にはどうして沢山本があるのかって」
「うん。本ってさ、文化の記録だったり、知恵の結晶だったり、娯楽的な物でもあるじゃない。つまりは、人類の欲の塊なのよ。だから、その存在理由を聞かれると、小難しい言葉をこねたり、哲学的なことを言ったり、必要以上に卑下したり。そんな感じなのよね」
「そう、かな」
「大抵はね。それが悪いとは思わないわ。それが本という物の本質なんだから。でもさ、アンタは違ったの。真顔で背表紙が綺麗だからだって。笑っちゃうわよね」
「難しいことは良く解らないから、思ったことを口にしただけだよ」
「あはは。バカにしてるんじゃないの」
くるりと回れ右でハチの方に向いた。
「澄んだ目でアンタはそう言ったの。ホントに裏も表もない綺麗な目だった」




