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十月十五日(火) -5-

「貴方の行動が来訪者の障害になっているのではないでしょうか。七不思議は御存知ですよね」

 

 七人目の来訪者。

 ハチがその内容を思い浮かべる為の間をとった。

 

 じわじわとハチから血の気が引いていくのを確認してから、話を続ける。

 

「あの中に登場する六人目、彼女の運命がどれほどの悲劇であったのかも」

 

 儀式を汚した六人目は来訪者の怒りを買い惨殺された。

 今、自分とリアルが行っている捜査が、来訪者を妨げる事になっているのではないか。

 もしそうなら、自分達を待ち受ける運命は。

 

「八房さん、大丈夫です。落ち着いてください。来訪者の力は現実界に、まだそれほどの影響を与えることはできないようです。しかし、もし、これ以上続けるのであれば……」

 

 言葉を止めた。

 だが、この先は聞かなくても予想できる。

 

「あの、私、どうしたら……」

「これ以上、この件には深入りしない方がいいでしょう。来訪者は人を遥かに超える存在です。わたくし達に抗う術はありません」

「でも、来訪者なんて」

 

 存在するはずがない。

 だってリアルが言っていたから。知恵と分析で世界は割り切れると。

 

「来訪者は常に貴方を監視しています。闇の中から息を潜めて。視線を感じませんか?」

 

 ぞくり。首の後ろを嫌な感触が伝う。

 

 慌てて振り向く。誰もいない。いるはずがない。

 整然と並ぶテーブル、その先に白い壁があるだけだ。

 だが、壁の向こう。闇の中に浮かんだ巨大な瞳が、じっと自分を捕らえている。圧倒的な殺意を込めて見つめている。

 そんなイメージが思い浮かんだ。

 

「感じたでしょう? 貴方が非常に危険な状態にあると理解して頂けましたね」

 

 低く押し殺した純理の声に顔を戻した。

 

「わたくしの用件はそれだけです」

 

 純理が腰を上げた。呼び止めようとするハチに、

「信じる信じないは貴方の自由です。ただ世の中には触れてはいけない物があることを忘れないでください。それでは失礼します」

 もう一度優しい笑みを見せると、踵を返して足早に立ち去った。

 

「そんな、私、どうしたら」

 

 残されたハチは、答えの出ない問いを自分に向けるしかなかった。

 

 中断された食事に戻ろうと、スパゲティをフォークに絡める。

 が口に運ぶ気がしない。

 

 来訪者。どこか空虚だった単語が、大きな存在感を伴って意識を締め付けてくる。

 そして、その圧力はちっぽけな自分が耐えられる物ではなかった。

 

 ことり。フォークが落ちた。

 萎えた足に力を込めて立ち上がる。

 

「もう止めないと。リアルに話して、手遅れになる前に」

 

 そう呟くと、冷め切ってしまったスパゲティを置いて駆け出した。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 リアルは大きく息をつくと、ちゃぶ台に置いた封筒を手に取った。

 

 黒に限りなく近い濁った赤色は、乾いた血を連想させる。

 

 先週九日の水曜、最初の人形落下事件の日に、生徒会長宛に届けられた不気味な一通。

 先刻、沙耶がリアルの部屋までやって来た時に預かった物だ。

 

「すごく不気味な手紙だね」

 

 お茶を入れ直したミノリが対面に座る。

 

「来訪者様からの手紙だってさ」

「ホント? で、中にはなんて書いてあるの?」

 

 好奇心に目を輝かせるミノリに、暗記した内容を一言一句違わずに伝える。

 

「凄いね。びっくりしちゃうよ」

「そう? センスの欠片もない……」

「違うよ。リアルだよ。一回読んだだけで覚えちゃうんだね」

「あはは、まあね。ここの構造が凡人とは、ちょっと違うからさ」

 

 ほっそりとした人差し指で、己の頭をつついてみせる。

 

「この手紙は大した問題じゃないのよね。でも、もう一個の方は楽観できないわ」

 

 リアルが珍しく渋い顔を見せる。

 

 沙耶がリアルの部屋にわざわざ足を運んだのは、この手紙を届ける為だけではなかった。

 もう一つ、厄介な話を持ってきたのだ。

 

 

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