十月十五日(火) -2-
「何かって?」
「え? それは、あれだよ。なんていうか。そういうやつ」
「ふうん、どうも不明瞭な話ね」
「あのさ、ちょっとくらい怖いとか思わなかった?」
「ん、どこが?」
「ううん。なんでもない」
目一杯に恐怖を演出したつもりだったのに。
リアルには全然伝わらなかったようだ。
ミノリはがっかりと肩を落としてしまう。
「分析すると、五人が自主退学したってのは事実よね。その後の日誌云々は後から蛇足された物、当時の怪談話かなんかじゃない?」
「うん。彼女達が退学した頃に流行った七不思議」
「ここでも七不思議か。あのさ、『七人目の来訪者』って話を調べてもらったんだけど」
昨日、ハチが書いてきたレポートの要点を伝える。
「なんとなく似てるね」
「オカルト研究部、合宿、アカデミーから去っていく部員。いくつかのポイントが重なる。この話をベースに『七人目の来訪者』が作られたのは間違いないわね」
「でも、随分と残酷な話に変わってるよね」
「怪談ってのはエスカレートするのよ。でも気になるわね。この手の怪談だと賞味期限は数年。当事者の世代が卒業すると消えちゃうのよ。どうして、この時代に復活したか。いや、誰かが意図的に復活させたとみるべきね」
「でも、なんの為に」
「そこなのよ。それが全然見えないんだよね」
大きく伸びをして、そのまま後ろに寝転がる。
「こらぁ。食べてすぐに横になると、牛さんになっちゃうよ」
「そんなことが起こるなら、世界中に食糧問題なんてなくなるわよ。バカバカしい」
「もう、相変わらずなんだから。あ」
ふと、ドアに視線を向けた。
「リアル、誰か来たみたいだよ」
「食後の団欒を楽しんでるのに、随分と無粋な奴ね」
「ね、ひょっとしてハチちゃんかな?」
「ハチが夜に来るとは思えないけどな。『六寮の幽霊』を、すっごく怖がってるのよね」
「そう、なんだ」
コンコンとノックが会話を遮った。
「まったく、面倒ね」
身体を起こしてリアルがドアに向う。
「はあい。誰? こんな時間に」
「夜分に失礼します。河原崎沙耶です」
「副会長?」
予想していなかった客人に慌ててドアを開ける。
「少しお時間を頂きたいのですが、よろしいですか?」
部屋着ではなく、きちんと制服に身を包んだ沙耶が強張った顔で告げた。
※ ※ ※
リアルの部屋に沙耶が訪れた頃、第三寮の食堂では夕食を摂るハチの姿があった。
アカデミーでは食材を買い込んで自炊するのが一般的なスタイル。
その為に各部屋にキッチンが完備されている。
だが、時間に余裕がない者や、料理に興味がない者、残念ながら調理の才能に恵まれていない者がいる。
各寮にある食堂や売店は、そんな少女達のライフラインを支えている頼りになる存在だ。
普段は不器用ながらも自炊をこなしているハチだが、今日はリアルに頼まれた調査で遅くなってしまった。
食堂は自炊よりコストが掛かるが仕方ない。ボリューム的にお得なミートスパゲティを注文し、遅めの夕食とした。
一度に百名以上が収容できる食堂も、この時間では利用者はまばら。
お茶を手に歓談している数人のグループが二つと、ハチと同様に遅い食事を摂っている生徒が数名だけ。
ハチはフォークに麺を絡めると口に運んだ。
咀嚼しながら、調査結果について考える。
リアルの予想通り、水曜の新聞は全て第一版だった。
更に、第四新聞部が先月購入した紙の量に驚いた。
アカデミーで生産できない物資は、月毎に本土から購入する必要がある。
しかし、個人やクラブが独自に行う事はできない。生徒会に申請するのがルールだ。
生徒会で注文履歴を調べた結果、第四新聞部の注文は普段の五倍。
つまり先月から準備をしていたという事になる。
この情報を持って、リアルは次の動きを開始するだろう。
子猫の瞳を好奇心と知恵に輝かせながら。
ハチはそれが楽しみで仕方ない。
「八房、八房ってば」
名前を呼ばれて、視線を向けた。すぐ傍だった。




