十月十五日(火) -1-
十月十五日(火)
午後八時。第六寮、リアルの部屋。
そのちゃぶ台では、厚みのあるハンバーグが柔らかな湯気を上げていた。
箸を刺すと、じわじわと肉汁がしみ出る。完璧な焼き加減。
適度な大きさに切り分けて口に運ぶ。
もぐもぐと咀嚼。ごくんと飲み込んだ。
「うわぉ、やっぱりミノリのハンバーグは最高ね」
リアルの歓喜に対面のミノリが目を細めた。
今日の彼女は珍妙なスタイルではなく、室内着である紺色ジャージにエプロン姿。
一方のリアルは、オバケカボチャがプリントされた橙のパジャマ。
子供向けのデザインが似合っている。
「ハンバーグのコツは火の通し方なんだよ。蒸して仕上げればジューシーになるの」
「料理の腕だけは大したもんね」
「リアルも料理くらいできるようにならないと。いつもインスタントで済ませちゃうんだから」
ゴミ箱に突っ込まれたカップ麺の容器に嘆息する。
「しょうがないでしょ。人間には得手不得手ってのがあるんだし」
「私が料理を作ってあげられるのは、リアルがアカデミーにいる間だけなんだよ。卒業したら、ずっと心配しないといけないじゃない」
困った表情を見せる。
「解った解った。じゃあ、ミノリが教えてよ」
「え、私なんかの料理でいいの?」
「ミノリの料理だから教えて欲しいのよ」
「そう言われると照れちゃうけど、卒業までに全部教えてあげる」
小柄な割りに豪快に食べるリアルを、湯呑みを手にしたミノリが見ながら世間話に興じる。
一風変わっているが、リアルの部屋ではごく当たり前の夕食風景だ。
「ふう。美味しかった」
ゆったり三十分。
食事を終えたリアルが満足そうにお腹をさする。
「もう、行儀悪いよ。それに、足を組んで座っちゃダメだってば」
「大丈夫よ。スカートじゃないんだから。見えるわけじゃないし」
「だから、見える見えないじゃなくて、心構えの問題なんだって」
食後のお茶を渡しながら、慣れっこになったやり取りをする。
「ところで、ミノリ。なんか解った?」
湯飲みに砂糖を落としながら、調査を依頼していた件に入った。
「三十年くらい前までは調べられたんだけど。六つも事件や事故が起こった記録はなかったよ」
「妙ね。七不思議なんてのは、必ずベースになる伝承があるはずなんだけど」
「でもね、ちょっと変な事件があったよ。五人の生徒が、次々と退学したっていう話」
「なんか事件でも起こしたの?」
「ううん、全員が自主退学。しかも全員同じクラブに所属してた子達なんだよ」
「興味深いわね。どのくらい前? そのクラブって何だか解る?」
「うん。二十二年前、オカルト研究部って文化部。なんか如何わしい響きがあるけど、実際には集まって怪談話とかする程度の活動だったみたいだよ」
「オカルト研究部! ちょっと詳しく聞かせて」
「うん、いいよ。夏休みの終わり頃の話なんだけど……」
二十二年前。
夏休みの終わり頃だったとされる。
長期休暇は本土で家族と過ごすのがアカデミー生にとっては普通である。
しかし、オカルト研究部の五人は、帰省を一週間早く切り上げ、アカデミーに戻ったというのだ。
そして、体育館を一晩借り切り、合宿と称するイベントを行ったそうだ。
普段、運動部が交代で使っている体育館を、一般生徒が独占できるのは長期休暇しか機会がない。
つまり、この合宿のために、アカデミーに早く戻ったと考えられる。
その合宿の数日後、夏休みが明ける直前に五人がアカデミーへの退学届けを出した。
理由は個人的な都合という事で、特に記録は残っていない。
「ただね。その退学届けを受理した先生が日誌に記してるの。彼女達はすっごく怯えていたって。顔色も悪くて、殆ど眠れていないようだったって。それにね」
言葉を止めて、溜めを作った。
ぐっとリアルの方に顔を近づけ、声のトーンを少し下げる。
「彼女達は、何かに追われているみたいだったって」




