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十月十四日(月) -2-

                    ※ ※ ※

 

 

 生徒会の倉庫は東校舎の四階、生徒会会議室の隣にある。

 生徒会の備品貯蔵や、各クラブが本土に注文した物資の一時置き場として使われている。

 

 教室と変わらない広さの半分には荷物を抱えた棚が整然と並び、残り半分にはダンボールが積み上げてある。

 部屋の奥、敷かれたビニールシートの上に二体の人形が横たわっていた。

 もちろん、水曜に屋上から落下した人形と、金曜に美術資料室で見つかった人形である。

 

 彩音は神有祭の準備に追われ時間が取れなかった。

 今日の調査に参加したのは、副会長の沙耶と風紀委員長の真樹。

 それにリアルとハチの四人。

 

「もう、いいわ。大体解ったから」

 

 人形の傍でしゃがみ込みんでいたリアルが、立ち上がった。

 

「え? もう、いいのですか?」

 

 驚いたのは沙耶だった。リアルは時間にして一分ほど。

 頭を揺すったり、シャツやスカートをめくっていたり、随分と適当な検分に思えたからだ。

 

「この人形にはレコーダーが入ってたのよね?」

「あ、はい。胴体に。人形の右にあるのがそうです」

「これね。お、結構良い物じゃん」

 

 手の平サイズのそれは傷のない新しい物で、型番もそれほど古くない。

 

「これってリモコンで操作できるタイプよね」

「リモコンは見つかっていませんが、遠隔操作が可能なタイプです」

「有効範囲は三メートルくらいよね?」

「そのくらいだと思います。メーカーに問い合わせれば、もっと詳細な情報も得られますが」

「いいわ。そこまで大事な話じゃないし」

 

 再生ボタンを押した。

 

 じわじわと沈黙が流れる。

 明らかに長過ぎる間だった。そして、唐突に重い声が響く。

 

「私は七人目。君らが来訪者と呼ぶ者だ。一人目の愚者はその屍を晒した。これから五人の愚者が道を開く。もうすぐだ。もうすぐ私はそちらに行く。私のもたらす物からは、誰も逃げられない」

 

 そして黙り込む。これ以上は記録されていない。

 

「金曜の人形が持っていた手紙には、残り四人と記されていたわね。となると、やはり二つの人形は同一の目的で用意された可能性が高いわね。でも、不自然よね」

 

 もう一度、再生。ゆっくりと時間を置いて。

 

「……私は七人目。君らが……」

 

 ぷつりと止めた。

 

「約四分の間があったわ。何故、こんな時間を空けたんだろ」

「偶然だ。気にするほどのことでもない」

 

 ずっと黙っていた真樹が面倒そうに答える。

 

「それも一つの考えね。でもアタシは、この四分が大きな意味を持っている気がするの」

「大きな意味だと? どんな意味があると言うんだ?」

「この人形の胴体って、綿が詰めてあったんでしょ? 衝撃を吸収するように」

「はい。それにレコーダーにも緩衝材が巻かれていました」

「でもね、不測の事態ってある訳じゃない。落下の衝撃で再生ボタンが押されてしまう可能性があった。そこでいきなりあの声が流れないようにしたかった」

「リアル、ちょっと待って。犯人は人形が落下してからリモコンで再生ボタンを押したってこと?」

 

 ハチの確認に、リアルは頷いた。

 

「そう、最も効果的なタイミングを見計らう為にね。人間にはショックを連続して与えるより、一度安心させてから、衝撃を与える方が効果的なの。犯人は、これは人形だった、自殺じゃなかった、と弛緩させてから、この声を聞かせたかったのよ」

「じゃあ、犯人は集まってた人達の中でも、前列近くにいた人ってことだよね」

「下らんな。野次馬達が互いの位置関係を覚えているはずがない。犯人特定には繋がらん」

「鷹壱先輩、そんな言い方って」

「その通り」

 

 ハチの不満をリアルが遮った。

 

「風紀委員長の言う通りよ。犯人特定には繋がらない。ところで副会長、この倉庫の鍵は生徒会が管理してるのよね」

「はい。普段は会長室に置いてあります。特別教室の鍵とは違って、綿密な管理はされていません。追加情報になりますが、合鍵は職員室に保管されています」

「管理が綿密でないということは、貸し出し記録とかを取っていないと解釈していいのね」

「はい。問題ありません」

「でも会長室からこっそり拝借はできないわよね」

「もちろんです。会長室への立ち入りは制限されています。会長本人もしくは副会長である私の許可が必須です」

 

 なるほど、と呟いてリアルが腕を組んだ。

 珍しく黙り込んで思考を巡らせる。

 

「どうした、詩方。手詰まりか?」

 

 打つ手なしと見た真樹が、追い討ちをかけてきた。

 

「真実を見抜く瞳、とやらの実力を拝ませてもらいたいのだがな」

「鷹壱先輩、その言い方はないと思います。リアルは一生懸命やってるのに、失礼じゃないですか。自分は喚いてるだけなのに」

 

 あまりにバカにした言い草に、つい声を上げてしまった。

 はっと気付いて慌てて口を紡ぐが、時既に遅し。

 

「八房、それはどういう意味だ?」

「あの、それは、その」

 

 睨みつける真樹にハチは震え上がってしまう。

 

「現状ではなんともならないわね。残念ながら手詰まりよ」

 

 そこにリアルが割って入った。

 

 理屈をこねて反論すると思っていた真樹にとっては、意外過ぎる発言だった。

 

「違う方向から情報を集めてみるしかないわ。時間を割いてもらったのに悪かったわね」

 

 戸惑う三人を残して、くるりと踵を返した。

 

「あ、待ってよ、リアル」

 

 早足で歩き出す小柄な背中を、慌てて追いかける。

 

 校舎を出たところで、ようやく左に並んだ。

 

「リアル、待ってよ」

「アンタさ、バカじゃないの」

 

 予想していなかった一言だった。

 

「あんなこと言ってさ。風紀委員長がどんな人間かくらい知ってるはずでしょ」

「そうだけど。でも、リアルに酷い言い方するんだもん。我慢できなかったんだよ」

「庇ってあげたんだ、とでも言いたいの?」

「違うよ。そんなつもりじゃないよ。私はただ……」

「それともなに? アタシに貸しでも作ったつもり?」

「違うよ!」

 

 思わず荒げた声に、リアルが目を丸くする。

 

「あんな風に言われて黙ってられなかったんだよ! だって、だって……」

 

 感情が上手く言葉にならない。

 肩を震わせながら、だってだってを繰り返すだけだ。

 

「泣くな。アタシが悪かったから」

 

 ポケットからハンカチを出して、ハチに渡す。

 

「だって、だって。リアルが、リアルが」

「だから、悪かったって。でもね、風紀委員長に睨まれたら、風紀委員を続けられないわよ」

 

 いつの間にか溢れていた涙を拭いながら、その意味を考える。

 

 今はリアルの助手となっているが、それは一時的な立場である。

 この事件が解決したら、風紀委員に、真樹の部下に戻るのだ。

 

「今からでも遅くないから謝っておいで。なんなら付いていってあげよっか」

「ううん、いい、大丈夫だから」

 

 小さく首を振った。

 

「私、風紀委員でも失敗ばっかりだから。誰にも期待されてないし、今日の事がなくても、あんまり変わらないと思うから。それに」

 

 笑みを作る。

 

「それに風紀委員続けるか、実はちょっと迷ってるんだ」

「ハチは風紀委員に向いてないかもね。気も弱いし、頭の回転も鈍いし」

「その言い方は酷いよ」

「褒めてあげてるのよ。まあ、風紀委員辞めたら、正式に助手として雇ってあげるわ」

「ホントに?」

「放っておくわけにもいかないしさ」

「うん、ありがと」

「まったく、迷惑な話よ」

 

 ぷいっと顔を逸らした。

 

 そんなリアルの仕草を見てると、ハチはつい頬が緩んでしまう。

 

「ん、なに? あれ?」

 

 リアルの言葉を追って、ハチは視線を向けた。

 通用門付近に人だかりが出来ている。

 

 


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