十月九日(水) -3-
「会長?」
驚きのあまり、ドアを開けたところで声が漏れた。
メタルフレームの眼鏡の奥で、どんな時も冷静な瞳が二周りは大きくなっていた。
その様子があまりに嬉しくて、彩音はしてやったりな顔を向けてしまう。
「まったく悪趣味にも程がありますね」
眼鏡の端を、左手の人差し指と中指でくっと上げる。
蛍光灯の光がレンズに反射する一瞬の間に、いつもの表情に戻った。
細面の顔にバランスよく配置された切れ長の鋭い目と、すっと通った鼻、丁寧な造りの唇。
髪は艶やかな黒のロングで、白い肌に一層映えて見える。十分な上背と女性らしい体型。
中等部とは思えない女性の魅力がある。
彼女、河原崎沙耶の腕章は副会長を示す銀の鷲。
「どういう風の吹き回しです?」
「教えてあげようか?」
彩音が、ふふふと演技めいた含み笑いを漏らす。
「水曜は六コマ目がない日なのだよ」
「知ってます」
アカデミーの授業は一コマ五十分。各コマの後に十分の休憩を挟む編成となっている。
ちなみに昼休みは七十分、四コマと五コマの間にある。
平日の授業は基本六コマ。ただしクラス毎に週に一日だけ五コマの日が設けられている。
「参考情報を申し上げるなら、私は明後日、金曜日が五コマです。私がお聞きしたいのは」
デスクの近くまで進み、提げていたキャリングホルダを差し出す。
「本日届いた生徒会長宛の書類と手紙です」
「ありがと。今日も多いね」
受け取って、その重さにうんざりする。
「それが生徒会長としての職務だと理解して頂きたいですね」
語尾を少し強める言い方はまるで母親だ。
「私が気になったのは、いつも探しに行くまで遊び歩いている会長が、自主的に職務についておられるのは、如何なる心境の変化があったのかという点です」
「その言い方だとさ。私が会長としての職務に不真面目みたいじゃない」
「みたいではなく、不真面目だと申し上げているのです」
「沙耶、どうしてそんな意地悪を言うの。私が嫌いになったの?」
潤んだ瞳で見上げる彩音から、
「嫌いになったのなら、この役職を続けたりしません。つまらないことを聞かないでください」
ぷいっと顔を逸らした。




