十月十一日(金) -16-
奇妙な言い回しにハチが怪訝な顔を作る。
「気付かせるために誘導するの。例えばこう言うの。その人形の胸ポケットに何か入っているよってね」
それはハチが美術資料室で口にした台詞だった。
「ま、それは最終手段。誰かが言ってくれればベストなんだけど」
「そんな、じゃあ、私は……」
ショックだった。ポケットの手紙に気付いた注意力を誇らしく思っていたのに。
犯人が用意したシナリオ通りに演じていただけだったなんて。
「ハチ、真実ってのはね、目に見える物だけじゃない。それが人為的な物であれば、人間の意図が裏にある。それを忘れちゃダメよ」
「やっぱり私はガッカリちゃんなんだ」
「こら、そんな顔すんな」
ハチのほっぺをぎゅっと抓った。
「痛い! いきなり酷いよ」
「痛いじゃないの! いい? アンタの観察力は誇れる物よ。でも使い方を理解してない。それを学んでいけばいいの。誰でも失敗して成長していくんだからさ」
「リアル」
不器用な励ましが嬉しかった。重くなった心が少し軽くなる。
「うん、ありがと。頑張ってみる」
「幸運にもアンタは、人の数倍は鈍くて緩いんだから。あ、これは褒めてるのよ」
「褒めてないよ、そんなの!」
頬を膨らませて抗議するハチに、リアルが目を細める。
悪戯が成功した子猫のような、実に嬉しそうな表情。
このやり取りが心地良いのだろう。
「でも、リアル」
ハチが真剣な顔に戻る。
「リアルの推測が正しいと、犯人はあの中にいたことになるよね」
「風紀委員もいたし、野次馬も多かった。その中に犯人がいても不思議じゃないでしょ」
リアルが足を止める。いつの間にか寮の近くまで戻っていた。
「じゃ、今日はここまで。アンタは第三寮でしょ」
「ホントに何でも覚えてるんだね」
「まあね。そうだ、ちょっと頼まれて欲しいんだけど。『七人目の来訪者』だっけ? その要点をまとめておいてくれる? できれば月曜くらいに」
「うん。解った。じゃあ、また月曜日に」
小さく手を振って別れる。
リアルという少女に出会って僅か数時間。にも拘らず、ハチはリアルに強い親近感を抱いていた。
不思議と一緒にいて楽しい。どこか惹かれる部分がある。
「ひょっとして、相性がいいのかな」
そんな事を考えながら、ハチは自室に向かった。
※ ※ ※
「ふう、疲れた」
第六寮。愛すべき自室の六畳間に戻ってきたリアルが、古風なちゃぶ台に腰を下ろした。
もちろん誰にはばかるでもなく足を組む。
「リアル、お帰りなさい」
澄んだ声に顔を向けた。
隣の四畳半とを隔てる襖を少し開けて、首だけを出していた。
長い黒髪をポニーテールにまとめた、透き通るほどに白い肌の少女だ。
緩やかな曲線を描く瓜実の輪郭。潤みのあるぱっちりとした目に、形の良い鼻。
淡い色の唇に柔らかな笑みが浮かんでいた。
「ただいま、ミノリ。待たせてごめんね。今日は依頼があってさ」
「だと思った。湯呑みが二つ出てたから」
「あ、片付けてくれたんだ。ありがと」
ちゃぶ台の上から湯呑みが消えている事に気付いて礼を述べる。
「で、受けるの?」
リアルに依頼を持ってくる生徒は多いが、受けるのは少ない。
その殆どが、リアルにとって時間の浪費にしかならない事件なのだ。
「うん、それなりに面白そうだし」
「そっか、良かった。準備が無駄にならなくて」
「準備ってなんの?」
えへへと少し照れくさそうな色を見せた。と、カラリと襖を左右に開け放つ。
現れた友人の格好にリアルは、ただ絶句した。




