十月十一日(金) -15-
「まあまあ、みんな褒めてるんだから」
「ぜっんぜん! 褒めてないよ!」
「あはは。怒らないでよ、ハチ。まあ、それはともかく」
小さく咳払いして、真剣な顔に戻す。
「会長様、人形は生徒会の倉庫に運んであるって言ってたわね。ちょっと調べさせて欲しいんだけど」
「いいよ。今から直ぐに……」
「月曜でいいわ。今日はもう遅いしね」
「え? 月曜?」
意外だったのだろう。彩音の声が半音上がった。
「今からでもいいよ。ね、沙耶」
「そうですね。まったく問題ありませんが」
「もう、遅いしね。今日はこれくらいで十分でしょ」
既に日は完全に沈んでいた。
時刻は午後七時になろうとしている。
「んなわけで今日は解散。お疲れ様でしたってことで」
一方的にそう告げると、踵を返して昇降口に歩を進める。
と、ドアに手を触れた所で足を止め、首だけで振り返った。
「あ、そうだ。アタシへの依頼は犯人達を捕まえる、でいいのかな?」
今更の確認に沙耶が怪訝な表情を浮かべる。
「もちろんです。できるだけ速やかに……」
「違うわ」
彩音が沙耶を遮った。いつになく真面目な顔で続ける。
「事件の真相を明らかにして欲しいの。誰が、何の為に、こんな悪戯をしたのか」
「了解よ、生徒会長様。じゃ、また月曜日に」
挨拶代わりに軽く右手を上げて、そのまま階段の下に消えて行く。
「待ってよ、リアル。あの、じゃあ私も失礼します。ね、待ってってば」
ぺこりと頭を下げて、ハチが追い掛ける。
「あの態度、なんと身勝手な」
「しかし、凄い方ですね。頼りになると言えばなりますが」
「頭の回転は早いし、大したもんね」
残された三人が、リアルの印象を交換した。
※ ※ ※
ぽんぽんと小気味良く階段を駆け下りていくリアルに、ハチが追い付けたのは一階だった。
そこでリアルが足を止めてハチを待っていたのだ。
「酷いよ。先に帰っちゃうなんて」
「ちゃんと待っててあげてるでしょ」
ハチの不満を、涼しい顔で受け流す。
「で、なに? アタシに聞いておきたいことがあるんでしょ」
「リアル、どうして来訪者は二枚目の手紙を隠してあったのかな?」
「どういう意味?」
「来訪者からの手紙だよ。ポケットに入ってたよね。メッセージを伝えるなら、背中に貼り付けておくとか。もっと目立つ方法にするのが普通なんじゃないかなって」
「そこに気付くなんて、なかなか鋭いわね。いいわ。寮に戻りながら説明してあげる」
そう告げると返事も待たずに歩き始める。
取り残されないようハチは急いで左に並んだ。
「ハチの言うとおり、来訪者は二枚目の手紙が見つかりにくいように隠していた。これについて、アタシは風紀委員長が原因だろうって睨んでる」
「え?」
風紀委員長である真樹は、ハチにとっては直属の上司にあたる。
融通の利かない厳しい人間ではあるが、職務に忠実で信頼できる。
その真樹が如何なる理由になるのか。話が見えない。
「誤解しないで。アタシはあの子を気に入ってるの。頭はガチガチで話になんないけど、実にからかいがいのある貴重な人材ね」
「その言い方は酷いよ」
「褒めてるつもりなんだけど」
「褒め言葉になってないから」
「あはは。でもね、あの子は忠実で頭が固すぎるのよね。もし、風紀委員長が最初にメッセージを見つけたら、どうすると思う?」
「それは、ちゃんと会長に報告を……」
ここまで言葉にして別の可能性が浮かんだ。
「……しないかも知れない」
「そうね。会長に余計な負担を掛けまいとして握り潰す。ただの悪戯ってことにして、あとは風紀委員で調査すればいいって判断するわ。野次馬が集まる前に対処できるし、風紀委員なら緘口令を敷くこともできる」
「だから見つかりにくいように隠したってこと? でも、それだと、メッセージを伝えられないかも知れないよ。実際、私がいなかったら、誰も気付かない可能性もあったんだし」
ハチがちょっと自慢気に胸を反らす。
「それはないわ。絶対に誰かが気付くことになる」




