十月十一日(金) -14-
「そういうこと。手を離せば、自然な動きで落下してくれるしね。なかなか考えられた方法ね。じゃあ、ここでもう一つ問題よ。今日と前の事件で一番異なる点はなんでしょう?」
「水曜の事件は、該当時刻に犯人が現場にいたということですね」
沙耶がくいっと眼鏡を上げた。
月の光がレンズに反射する。
「うん、正解。では水曜日の犯人の動きを考えてみるわね。犯人は十五時四十分に授業が終わると、三十キロの人形を抱えてここまでダッシュ。ワイヤーにくくりつけて柵の外に放り出し、ここで伏せて落下しないように状態をキープ。十六時まで待って、人形を落下。後は誰にも見つからず、屋上から消える。なかなか超人的な活躍ね」
「つまり、来訪者には凄い運動能力があるってことだよね?」
真剣な顔で確認するハチに、リアルが目を丸くする。
「え? え?」
他の三人のやはり驚いた様子に焦る。
何か変な事を口走ったのだろうか。
「アンタってさ、想像を絶するお間抜けなところがあるのね」
「ま、間抜けなんかじゃないよ」
「褒めてるのよ。アタシの予想を飛び超えるなんて、なかなかできないわよ」
「全然、褒めてないよ!」
「まあまあ、リアルさんは時間的に考えて、六コマの生徒は犯人から除外されると言っているのですよ」
苦笑を浮かべながら、沙耶が説明する。
憧れのクールビューティに、そんな風に言われるのは恥ずかしい。
思わず俯いて黙り込んでしまう。
「副会長とハチは今日が五コマのはずよね。風紀委員長は月曜日。この三人は犯人ではないわ。おめでとう。潔白が証明されたわよ」
「私は水曜が五コマなんだけど、ひょっとして容疑者になっちゃうのかな」
少し困ったように彩音が声を上げた。
「それは有り得ないと自分が断言します。あの時間、会長は私と会長室にいました」
「やはり、ここにいるメンバーは白だな。まずは一安心か」
真樹が安堵の色を見せつつ、次の疑問を口にする。
「しかし、この屋上も施錠されていたはずだ。どうやって入り込んだかだな」
「副会長、鍵の管理はどうなってるの?」
「鍵は生徒会と職員室で管理されています。貸し出し時には、申請書の記入が必須です。この運用は美術資料室の鍵も同様です。追加情報になりますが、水曜に屋上の鍵の貸し出し記録ありませんでした。美術資料室の鍵については、未確認ですが恐らく……」
「記録はないと考えるのが普通ね。管理は完璧? こっそり取れたりしない?」
「無理ですね。鍵を保管しているロッカーも施錠されていて、その鍵は会長と主任教師が管理しています」
「つまり、どうやってもチェックを潜り抜ける必要があるわけか。逆に、施錠忘れってのは考えられない?」
「それはないよ。落下事件の後、風紀委員の子達と屋上に向ったんだけど、鍵はちゃんと掛かっていたから」
彩音の説明に、リアルが首を捻る。
「となると、来訪者っていう超常の存在がホントにいるのかもね」
小さな呟きに、ハチが肩をぶるっと震わせた。
「ハチ、ひょっとして怖いの?」
「そんなことないよ」
「でも屋上に出た時、妙な気配を感じたのよね」
「じょ、冗談止めてよ」
と、いきなりリアルの顔が強張った。
「ハチ、後ろ!」
「はひぃやぁ!」
悲鳴を上げて、慌てて振り返る。が、もちろん何もない。
「あ、あれ?」
「あのねえ、こんな幼稚なの子供でも引っ掛からないわよ」
「いやいや、素直でいいと思うよ。ぐふっぐふっ」
「流石、ガッカリちゃんと言うべきかな。くくく」
「ふふっ、いえ失礼しました。その、なんと言うか、実に天真爛漫な方ですね」
呆れているリアルと懸命に笑いを堪えている三人に、
「酷いよ! 騙すなんて!」
真っ赤になって抗議の声を上げる。




