十月十一日(金) -13-
※ ※ ※
錆び付いた音を立ててドアが開いた。
秋よりも冬が近い季節。吹き込んでくる風は、太陽が地平線に落ちようとしている今、肌寒さすら感じさせる。
狭い昇降口から順に屋上に出た。
先頭は彩音。続いて沙耶と真樹。最後にハチとリアルである。
「うわぁ、もう星がこんなに出てるよ」
ハチが感嘆の声を上げた。
既に頭上には気の早い星が散らばりつつあった。
やや欠けた月が嫌にはっきりと空に浮かんでいる。
「ほら、リアル、見て見て。星がすっごく綺麗だよ」
「別にいつもと変わんないでしょ」
「そんなことないよ。空に近い分綺麗に見えるはずだもん」
頬を膨らませた。
ハチのテンションがこれほどまでに上がっているのは、普段立ち入り禁止となっている屋上に出られたからだろう。
「アンタはお気楽ね」
言いながら、周囲を見回す。
屋上は胸の高さくらいの落下防止柵で囲まれている。
ある物と言えば、北側の隅に並んでいる巨大な貯水タンクが、三個ずつ二列。
タンクの手前に掛けられた、高さ一メートル弱、三メートル四方のブルーのビニールシート。
他は昇降口くらいだ。
「会長様、あのシートは?」
「資材よ。神有祭用の。木材とかだよね」
「木材、ロープ、ペンキ。その他、様々な物がありますよ」
沙耶の説明を聞きながら、リアルはシートの側まで移動、少し持ち上げて中を覗き込む。
説明通り、建築用の材木に太く丈夫な縄、ペンキの缶がある。
それ以外にも耐水加工された段ボール箱や大きく膨らんだビニール袋があった。
隅には運搬用の手押し台車が三台。
「生徒会用の倉庫はそれほど広くなくてさ。施錠できる場所じゃないと、こっそり持って行っちゃうクラブもいるし」
「で、屋上に置いてあるのね。立入禁止で場所も広い。有効なスペース活用ってわけか。納得納得。いつくらいから置いてるの?」
「そうですね。先月末からです」
「毎日数量をチェックしたりしてる?」
「いえ。原則的には使用時に申請してもらって貸し出すことになりますから。その時にチェックしています」
「ふうん。ま、いいや。人形が落下したのは、どの辺りだっけ」
「北寄りですね。この辺りだったと聞いています」
沙耶が足を止めたのは、中央部から北側に半分くらい、全体的には七分目の位置だ。
「真ん中からの方が目立つはずだけど」
沙耶の示した位置から、落下防止柵に手を掛けて下を覗き込む。
「ここからだと、いくつか死角になるわね」
角度の問題で、北校舎の西側の教室は見えなかった。
続いて正面から右側へ顔を動かす。
「東校舎の教室は全部見える。南は通用門。夕日を考慮すれば、正面はカーテンが掛かっていたと考えられるわ。逆に北校舎にはカーテンが開いていた部屋があったのね」
ふむふむと頷く。
「生徒会長様、あの人形はどうしたの?」
「生徒会の倉庫にあるよ。運ぶの、苦労したんだよ。鷹壱先輩が手伝ってくれたから、どうにかなったけど」
「自分が役に立てるのは力仕事だけですから」
柄にもなく真樹が恐縮する。
「ところで、その人形って頭に重心が集まってたんじゃない?」
落下防止柵に指を這わせながら、リアルが尋ねる。
「うん。それがどうかしたの?」
「これを見て」
手招きするリアルに従って、全員が柵の近くに集まる。
柵の一部に細かい引っかき傷があった。
塗装が剥げて金属の見えている部分もあるが、錆びもなく、つい最近付いたのが解る。
「人形をどうやって屋上に立たせたか。これで解るわよね」
「ワイヤーで、縛り付けていたんだな」
「確かに人形の腰に何本かワイヤーがあったよ。でも、縛り付けるにしては長すぎると思ったけど」
彩音が情報を補足する。
「そりゃそうでしょ。縛ってたわけじゃないんだから。正解はワイヤーで引っ張っていたの。そうね」
リアルが柵から中央に向けて移動する。
「この辺りで伏せて、ワイヤーで引っ張ってたのよ。ここなら、下から見えないし」
「そっか。頭が重いから、引っ張る力とのバランスが取れたんだ」
彩音が小さく手を打った。




