十月十一日(金) -12-
「リアルさん、言い過ぎです!」
沙耶の非難に、リアルがふふんと鼻を鳴らす。
「それでいいの。こんな下らない悪戯に気圧されるなんて、らしくないったらありゃしない。アンタは、そうやって無駄に鼻息荒くしてるのが似合ってるの」
「リアル、その言い方は酷いよ」
「あれ、おかしいな。褒めてあげてるのに」
真樹が力を抜いて、呼気と共に上がった体温を吐き出した。
真剣な顔で首を捻るリアルを見ていると、怒っているのがバカバカしくなったのだ。
「で、どうして同一犯の仕業だと言いきれるんだ?」
「ハチの言う通り、犯人の目的が来訪者という存在をアピールすることにあるからよ」
待ってましたとばかりに、にぃっと犬歯を見せた。
「前の人形は限り精巧でないとダメだったの。落下したのが、直ぐに人形と解る代物だったら、どう? みんな、あっという間に興味を失って解散しちゃうでしょ」
「なるほど。つまり、衆目を集める為だったと言う訳ですね」
「そう、多くの人間を惹きつけておく必要があったの。その次のステップ、来訪者がやって来るということを、センセーショナルにアピールするためにね。今回の事件は大きなアピールは必要ない。もう、誰もがこの事件に興味津々だから」
ちらりとドアの方に顔を向けた。
野次馬が明らかに増えている。
「重要なのは、首を吊った人形があるという事実。ちなみに人形が軽いのは、ロープが切れたり、解けて落ちたりしないようにって工夫と考えられるわ。そこで次の問題よ。どうして、そんな工夫を凝らす必要があったんだろう」
ぐるりと四人の顔を見回す。
反応がないのを確認して続ける。
「じゃあ、ヒント。何故、ここ、美術資料室に吊るしたのか。脚立を使えばどこだって置けるわけじゃない。どこかの教室でも、食堂や体育館だっていいわよね」
「そうだな。普段なら美術資料室は立ち入る生徒はいない。見つからない可能性もあったはずだ」
「悪くない推測よ、風紀委員長。でもね、見つからない可能性はなかったの」
「リアルちゃん、解ったよ。今日の清掃が美術資料室だからだね」
「ご名答。流石、生徒会長様」
アカデミーでの清掃は当番制。
各自のクラスはもちろん、校庭の草むしりや特殊教室、寮の清掃まで、全てが持ち回りとなっている。
とは言え、あらゆる場所を毎日掃除するわけではない。
美術資料室などの使用頻度の少ない部屋は、月に一回程度のサイクルだ。
「だから、会長様は止めてってば」
「つい言い易くてね。じゃあ、問題に戻るわよ。何故、人形がロープから落ちない工夫をしたんだろう」
「この悪戯を施した時間から発見までに、間があったのではないでしょうか。放課後ではなく、もっと早い時間に仕込んでおいたのでは」
沙耶の答えにリアルが頷く。
「正解ね。おそらくは昨日の夜。こっそり忍び込んで仕掛けた可能性が高い。派手な明かりは使えないし、短時間で作業を済ませないといけない。人形が重いと難易度が高すぎるわね。もちろん、それだけじゃなく、ロープが外れるリスクも考慮しての軽量化でもあると考えられる。さて、この推測からもう一つの真実が導かれるわね。ハチ、何だと思う?」
「発見されるまで、ここに入れなかったってことかな」
「うん、なかなか鋭いぞ。犯人は人形が発見されるまで、ここの様子を確認できなかったの」
「しかし、夜間は、いや、美術資料室は昼間でも施錠されているはずだ。現に清掃当番の生徒が担当教諭に鍵を借りて開けたと証言している」
「そうよね。さて、どうしたもんかな」
リアルが腕を組んで目を閉じた。思考を巡らす時間がじれったい。
「よし」
呟いて目を開ける。
誰もが期待に満ちた表情でリアルを見つめていた。彼女の答えを待っているのは明白だ。
「とりあえず、場所を変えよっか。今日はいい天気だし、空の見える場所がいいわよね。例えば、西校舎の屋上なんて悪くないと思わない?」
新しい玩具を貰った猫のように、実に満足そうに目を細めた。




