十月十一日(金) -11-
彩音の、沙耶の、真樹の視線が人形が着ているブレザーの胸元に集まる。
確かに何か薄い物が入っている。
「ハチ、なかなか注意深くていいわよ。助手としては及第点ね」
言葉とは裏腹に残念そうに息をついた。
人形に半歩寄ると、ポケットに指先を突っ込む。
出てきたのは折りたたまれた一枚の紙。
鈍く黒ずんだ赤色に、沙耶が眼鏡の奥の瞳を見開いた。
「どれどれ」
リアルが手際良く紙を広げた。
中に記された赤い文字に、不快な表情を見せつつ読み上げる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
親愛なるアカデミーの皆様へ
二人目の愚者はその屍を晒した。私は更に一歩近づいた事になる。
あと四人。全ての愚者が、路を開く礎となるだろう。
祈る者は祈ればいい。抗う者は抗えばいい。
だが誰にも止める事はできない。私の来訪を心して待つのだ。
七人目より
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「来訪者からのお手紙ってわけね。しかし、暗示的で良く解んないわ。唯一読み取れるのは、あと四回もこんな低俗な悪戯を繰り返すってことくらい。どうしたの。みんな暗い顔して」
リアルを除く全員が、沈痛な面持ちで視線を落としていた。
「やっぱり、ホントに来訪者が来るのかな」
ハチが漏らす。
狂気と絶望を携えてくるという七人目の来訪者。
普段なら他愛ない怪談と笑い飛ばせるが、不気味な事件が立て続けに起こった今、その未知の存在に対する不安と恐怖が、じんわりと心の奥に染み込んでくる。
「あらまあ、みんな随分とメルヘンチックなのね。生徒会ってのは、メルヘンチックでないと入れないもんなの?」
「貴様」
リアルの茶化した言い方に、真樹が声を上げる。
しかし、いつもほどの強さがない。
「怖がってても、何の解決にもならないのよ。アタシ達がすべきことは、状況を冷静に分析すること。ほら、今回は前回に比べて、相違点が多いでしょ」
すうっとリアルが目を細めた。
愛らしい子猫の瞳から、獲物を狙う狩人のそれに変わる。
「まず、人形の出来具合が違う。新聞の写真を見たんだけど、前の人形は精巧な物だった。極限状態だと人間だと誤認するくらいね」
新聞とは新聞部が発行している雑誌の類を指す。
アカデミーでは五つの新聞部が、曜日毎に情報誌を発行している。
水曜の事件が掲載されたのは、第四新聞部が発行する木曜の新聞。
ゴシップ中心の低俗誌として一番発行部数が少ない新聞だ。
それがオカルト的不安を煽る形で大々的に載せていた。
「それに今回はとっても地味。前はあれほど大仕掛けだったのに。どうしてだと思う?」
「前回と違う者の仕業だと言いたいのか?」
真樹が答えた。
「それなら、人形の出来がお粗末なのも、やり方に違和感があるのも納得できますね」
「前の悪戯が受けたのを見て真似してみた。有り得るかも」
沙耶と彩音も、その意見に賛同を表わす。
「ハチはどう?」
「えっと、私は、その」
集まる視線に気圧されつつも、小さく首を振った。
「同じ人がやったと思う。それが来訪者なのか、人間がやったのか解らないけど」
「なんでそう思う?」
「上手く言えないんだけど、結果的にメッセージを伝えるのが目的に思えるから」
「うん。理知的な答えではないけど、アンタの感性は鈍いボンクラより、真実に一歩近い位置にいるわ。あ、ボンクラってのはアンタのことだからね」
ほっそりとした指を真樹に向ける。
しばしの間があった。
青ざめていた真樹の頬が、怒りで紅潮していく。
「貴様! 言わせておけば!」
掴みかかろうとする巨体を三人掛かりで押し止める。




