十月十一日(金) -10-
「こんな悪戯は自分達風紀委員だけで十分。こんな奴に……」
「これからは協力して捜査にあたってください。これは生徒会の決定です」
沙耶の冷たい言い方に、真樹が言葉を飲んだ。
押さえきれない感情が顔を赤黒く染めていく。
「先輩、そんな怖い顔しないで」
慌てて彩音が割り込んだ。
「私も沙耶も鷹壱先輩を、すっごく頼りにしてるんだから。私達生徒会が運営できているのは、風紀委員が支えてくれているからだって、いつも感謝してる」
「会長……」
お世辞を含んでいるのは解る。
それでも、朴訥な真樹には嬉しい言葉だった。
「リアルちゃんの件は私と沙耶で決めたことなの。でも、鷹壱先輩が反対だと言うなら」
「いえ、自分はただの風紀委員、生徒会の決定に異を唱えるつもりはありません」
「ありがとう。でも、もし私達の判断に誤りがある思ったら、どんな時でも注意して欲しいの。良き先輩として」
「勿体ないお言葉。胸の奥にしまっておきます」
「ふうん、なるほどね」
二人のやり取りを聞いていたリアルが小さく呟いた。
「人心をコントロールするのに長けているのね。一年で生徒会長になる人は違うわ」
「リアル、失礼だよ。褒めてるのよって言うのは解ってるけど」
「褒める、ね。まあ感心はしてるわよ」
真樹が、ひそひそ話しているリアルの方に向き直った。
その顔からは幾分か怒りが引いている。
「不満がないと言えば嘘になるが、協力できることは協力しよう」
「静かに黙ってくれていれば、それが最大の協力になるから」
「では会長、中にどうぞ」
挑発めいたリアルの言葉を流し、四人を中に通した。
分厚い遮光カーテンが閉められた室内は、蛍光灯の弱い明かりだけで薄暗かった。
壁際の棚にはデッサン用の石膏像が並び、部屋の隅にはイーゼルが畳まれた状態で置かれている。
窓際に積み上げられたダンボールの中身は絵の具や画材。
分厚い紙で丁寧に包装され、床に重ねられているのは、生徒達の描き上げた作品だろう。
部屋の中央に六段ステップの脚立が立っていた。
高さ二メートル近くになる最上段の足場から人形がロープでぶら下げられている。
ロープは人形の首に結ばれていた。
首吊りを模しているのが誰の目にも解る。
「二人目は首を吊る。やっぱり、七不思議の通りなんだ」
そうこぼしたハチの顔は完全に色を失っていた。
「ハチ、七不思議ってなに?」
「え、リアル知らないの? 『七人目の来訪者』だよ。アカデミーの七不思議の」
「ふうん、そんなのもあるんだ。アタシが知ってるのは『第六寮の幽霊』くらいね」
「鷹壱先輩、痛ましいから、下ろしてあげて欲しいんだけど」
「ちょっと待って」
彩音の指示をリアルが遮る。
不愉快な顔を見せつつも、真樹が動きを止めた。
「もうちょっと見せて欲しいのよね」
脚立の周りをゆっくりと歩きながら、人形を注視する。
人形と言っても一昨日の物ほど精巧ではなかった。
アカデミーの制服を着ている点は同じだが、身体つきも不自然に細身。
袖口から覗く手にしても、指先までちゃんと作られてはいない。
どんな状況でも人間と見間違う事はないだろう。
リアルの右手が軽く触れると、人形がふらふらと揺れた。
「ずいぶんと軽いわね。前の人形はかなり重かったと聞いたけど?」
「うん。私だけじゃ運べなかったくらいね。三十キロ近くあったんじゃないかな」
「なるほど、ね」
彩音の答えにリアルが頷く。
「リアル、その人形の胸ポケット、何か入っているよ」
脚立から離れて見ていたハチが、恐る恐る声を掛けた。




