十月十一日(金) -9-
「カーテンね。で、生徒会長様は、その時間はどこで油を売っておられたのかな? あの日はケーキの新作は出てなかったはずよね」
リアルの目が彩音に移動する。
「だから、今日のことは悪かったって言ってるじゃん」
「あはは、冗談よ冗談。念の為に聞いておこうと思ってね。どこで何を?」
「聞いて驚け。実はこの部屋で書類の整理をしていたのだ」
「それは意外な答えね。ひょっとして冗談?」
「うわぁ、なんかすっごく失礼なコメントされてるよ。沙耶、ちゃんと言ってあげてよ」
「それが本当なんです、驚くことに。私がここに入った時には、デスクで神有祭の予算請求申請書に目を通しておられました」
「ふふふ、私もやる時にはやるんだよ」
「あの日だけでしたけどね。昨日は昨日で、ふらふらと……」
「だって、一日で疲れたんだもん」
「ふうん、会長様が真面目に職務にね。そりゃ雨どころか、人形が降ってくるのも納得できるわ。いや、人間が降ってこなくて良かったと思うべきね」
「その点に関しては私も同意見です」
「もう、沙耶まで」
彩音がぷっと頬を膨らます。
「まあ、冗談はともかくさ、どうして会長様はカーテンの掛けたままで仕事してたの?」
「会長様は止めてよ。彩音でいいから」
大袈裟な呼称に、つい苦笑してしまう。
「校庭が見えると、遊びに行きたくなるんだよね。でも、こんな騒ぎになるんなら、開けておけば良かった」
「それは野次馬的な意味で、でしょう」
「ち、違うわよ。その、えっと、もっと捜査協力ができたのに、ってそういう意味よ」
沙耶の冷たい視線に、苦しげに釈明する。
「とにかく解ったわ。ありがと。次は西校舎の屋上を……」
リアルの言葉を遮るように、いきなりドアが激しく叩かれた。
返事よりも早く、ドアが開け放たれる。と、真っ青になった少女が転がり込んできた。
「北校舎で! 北校舎で人形が! 二つ目の人形が!」
一昨日が思い出される展開だった。
※ ※ ※
北校舎は二から四階までが三年生の教室になっている。
一階には特殊教室の美術室と理科実験室。ちなみに、食堂と視聴覚室は西校舎の一階。
図書館や体育館、各クラブの部室は別の敷地にある。
人形が発見されたのは美術室の奥。
美術資料室だった。
四人が現場に駆けつけた時点で、既に騒ぎを聞きつけた野次馬が美術室のドア付近に群がっており、廊下に響く風紀委員の高圧的な声が室内に入ろうとする生徒を押し留めていた。
「ちょっと通して!」
生徒会長の彩音を先頭に野次馬達を掻き分け、どうにか入り口に辿り着く。
「会長、お待ちしていました」
彩音の姿を見るや、青い鷲の描かれた腕章を付けた生徒がやってきた。
百八十はある身長、しかも鍛え込まれた身体は体躯以上の圧力を放っているかのよう。
意思の強さを象徴するような険しい顔立ち。肩口まで伸びたストレートの黒髪は、前髪を全て上げている。
立派に膨らんだ胸がなければ、男子と間違われても仕方ない。
彼女が風紀委員長を務める鷹壱真樹。三年生。
柔道部のエースでもある彼女は、腕っ節ならアカデミーナンバーワンと恐れられている。
「発見者は清掃当番の生徒です。とりあえず入室規制を敷き……」
報告しながら、真樹の視線が彩音の後に続く沙耶。それからハチに移る。
と、最後尾の少女を目にした真樹の表情が強張った。
「詩方! なんでお前が! 捜査の邪魔だ! 出て行け!」
いきなり噛みつくほどの勢いで吠える。
ハチがびくっと肩を跳ねさせたが、当のリアル本人はその怒気を意に介する様子もない。
「あら、風紀委員長、お久しぶり。相変わらず声と図体は無駄に大きいのね」
「貴様! 邪魔だと言っているだろう!」
「お待ちください」
一層声を荒げて近寄ろうとする真樹を、沙耶が遮った。
「生徒会として、リアルさんに事件の調査を依頼したのです」
「そんな!」
「ま、そういうことなんで。あんまり邪魔はしないでね」




