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十月九日(水) -2-

「まさか自殺とか?」

「誰か先生呼んできてよ」

「生徒会も! 風紀委員とか、何してんの!」


 ヒステリックな叫び。


 放課後の弛緩した気分は、異常事態に対する緊張に変わりつつあった。


 不意に乾いた火薬の音。

 人影の後ろに、数発の打ち上げ花火が飛んだ。

 夕日の中に赤や青の光が、淡くふわっと広がる。

 

 校庭の生徒はもちろん、校舎を歩いていた生徒も、校門近くの生徒達でさえ。

 それを耳にした者は例外なく視線を向けた。

 

 ぐらり。人影が動く。

 

 ゆっくりと。信じられないくらいゆっくりと、シルエットが屋上を離れた。

 空気の流れに煽られてスカートがはためく。

 

 誰もが息を飲む中、ドスンと重い音が足元に響いた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 中等部東校舎四階。

 一番南側には生徒会執行部の会議室、その隣に生徒会長室がある。

 

 会長室の広さは十畳ほど。

 遮光カーテンがひかれている今、蛍光灯が室内を照らしていた。

 

 窓と対面の壁に立つ本棚と三つの収納ケースはスチール製の質実剛健なデザインで、部屋の隅に置かれた打ち合わせ用のミニテーブルとソファーも実に簡素な物。

 アカデミー生徒会の頂点たる生徒会長の執務室にしては華やかさに欠けるが、逆に機能を重視して実務的とも言える。

 

 上座に配置された、ゆったりとしたデスクセットに座る少女が一人。

 左腕の腕章に描かれた金色の鷲は、アカデミーのシンボル。

 そして生徒会長の証でもある。

 

 生徒会長と聞けば、物静かな優等生をイメージするのが一般的。

 しかし中等部の現生徒会長、藪坂彩音やぶさか あやねは対照的なタイプの生徒と言える。

 

 短く切り揃えられた茶色の髪。やや控えめな鼻に、大きい口。

 薄い色の虹彩を持つ大きな瞳と、くっきりした眉。輪郭は丸みがあって愛らしい。

 初等部の頃から陸上部で鍛えた身体は、小柄ながらも細くしなやかな造りになっており、日焼けした肌と相まって実に健康そうだ。

 

 いつも明るく笑顔で頑張る、を信条とする彼女にしては珍しく渋い顔で書類の束に目を通していた。

 最後まで読み終えると、否認と書かれたハンコを打ちサインを添える。

 

 一枚捲り、唖然とした。

 これまたびっしりと文字が埋まっている。

 

 溜息をこぼしながら、時計を確認した。

 十五時四十三分。終業のチャイムから三分経つ。

 

 遮光カーテンで閉ざされた窓に、ちらり目をやったのと同時だった。

 コンコンと小気味良い音がドアを叩き、返事よりも早くノブが回る。

 

 


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