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十月十一日(金) -7-

                    ※ ※ ※

 

 

 ばんっ! 

 沙耶の手が力一杯机を叩く。

 

 すぐ近くから飛び込んでくる激しい音に、デスクに座った彩音はびくりと首を縮めた。

 

「会長、説明して頂けますね?」

 

 その目つきと口調は、質問ではなく詰問だ。

 

「あのさ、今日はさ、その、ほら、ケーキ部の新作が発売される日でしょ」

 

 ケーキ部とはその名の通り、ケーキを制作販売するクラブである。

 乙女の園であるアカデミーにおいて、スイーツは最大の関心事。

 ドーナツ部やクレープ部等、様々なクラブが放課後に露天屋台を出している。

 

「だから、その、味見に……。いや、そのね、視察っていうか、そう、衛生管理を含めて確認しておかないとって。あくまで生徒会長の職務の一環として……」


 沙耶の手が再び机を打ち付け、彩音の苦しい言い訳を断ち切った。

 

「いい加減、生徒会長としての自覚を持ってください。今はとても大切な時期なんですよ。しかも、あんな事件まであったのに」

「それは解ってるけど」

「解っていません。朝から何度も念押ししたはずです。にも拘らず、ケーキを食べる為にすっぽかすなんて。生徒会長としての職務を何だと思っているのです」

「ついうっかり忘れただけなのに」

「ついうっかり、で済む問題ではないでしょう」

「ただの悪戯に大袈裟過ぎだよ。しかも訳の解らない人まで雇う必要ないのにさ」

「会長!」

 

 不満気に口を尖らせる彩音に、沙耶が声のボリュームを上げる。

 

「まあ、いいんじゃない。会長の言い分は最もだと思うわよ」

 

 少し離れた場所になるソファーから、リアルが割り込んできた。

 

 沙耶が慌てて視線を向ける。

 リアルの性格は噂で聞いていた。

 

 融通の利かない変わり者。気分家でへそ曲がり。

 訳の解らない人呼ばわりされた彼女が、どんな反応を取るか簡単に予想ができた。

 

 が、リアルは顔色を変える事もなく、落ち着いた仕草で来客用のカップを口元に運ぶ。

 

 カップの中身はコーヒー。リアル的には遠回しに、一般的には露骨に要求した物だ。

 

「う、にがっ」

「やっぱり、ミルクと砂糖を入れた方がいいんじゃない?」

 

 と、智美が建設的な提案をしてみるが。

 

「要らない。コーヒーはブラックで飲む物なのよ」

「もう、意地っ張りなんだから」

「違うわよ。インスタントの安物がアタシの口に合わないだけよ」

 

 そう言い切るとカップをテーブルに戻した。

 

「で、どうする? アタシに依頼する?」

「もちろん、お願いします」

 

 彩音が口を開くよりも早く、沙耶が答える。

 

「ちょっと、沙耶、今の生徒会にそんな予算は……」

「費用なら私がポケットマネーで支払います」

 

 彩音の不満をばっさり斬り捨てる。

 

「神有祭を控えている今、どんな些細な物でも、不安材料は取り除くべきです。結果がただの悪戯であるなら、それも良しです。しかし、万が一にも、会長の身に何か起こるようであれば、私は……私は……」

 

 言葉が途切れた。

 感情に押されて続きを失っているのが解る。

 

「沙耶がそこまで言うなら」

 

 彩音が大きく息をついた。

 それからリアルに顔を向けると、深々と頭を下げる。

 

「不愉快な思いをさせてごめんなさい。力を貸して欲しいんだけど、お願いできる?」

「もちろんよ。そのつもりで来たんだし」

 

 ソファーから身軽に立ち上がると、デスクまで移動。

 好奇心旺盛な子猫を思わせる愛らしい表情を浮かべつつ、右手を差し出す。

 

「お金の方は気にしないで。今回は貰わないって約束したから」

 

 リアルの意外な一言に驚きを浮かべた彩音だったが、直ぐに笑顔で手を握り返す。

 

「ありがと。助かるな。よろしく頼むね」

「じゃあ、契約成立ってことで」

「ありがとうございます。私からもよろしくお願いします」

 

 続いて沙耶も握手を交わす。

 

「詩方さん、生徒会は全面的なバックアップを約束致しますので、何でも遠慮なく仰ってください」

「ありがと。早速二つばかりお願いしたいことがあるんだけど」

 

 

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