十月十一日(金) -6-
「え、でも」
いきなり退室を促がされるとは予想外。
少しうろたえてしまう。
「今日は本当に助かりました。このお礼は必ず。それとこの件は内密にお願いしますね」
取り付く島もなかった。
沙耶がリアルを呼んだ理由について、智美も推測はできていた。
一昨日、水曜日に起こった人形落下事件。
あのミステリアスな事件の調査を依頼したいのだろう。
どこか不思議なリアルという少女と謎の来訪者事件。実に好奇心を刺激される。
しかし、自分はガッカリちゃん。出る幕があるとは思えない。
「はい。解り……」
「ちょっと待ってもらえる?」
リアルが遮った。
「アタシはね、その子に頼まれてここまで来たの」
「依頼は生徒会からさせていただくつもりです」
「その子の依頼だから受けることにしたって言ってるんだけど」
眼鏡の奥、沙耶の切れ長の瞳が鋭さを増した。
挑戦的なリアルの視線を正面から受け止める。
緊張感を多分に含んだ沈黙。
「あの、ちょっと待って下さい」
耐え切れずに声を出したのは、智美だった。
「アンタはどうしたいの?」
いきなり矛先を向けられ少々面食らう。
「興味ないって言うなら別にいいわよ。もちろん、一旦受けると決めた依頼を反故にしないから安心して」
「私としては、八房さんを巻き込むべきではないと考えています」
「あの、私は……」
迷う。
感情と理性が束の間の綱引き。
「私なんかは何の役にも立てないと思います」
そう、迷惑を掛ける前に身を引くのが正しい。
「でも、その、迷惑でなければ、私に何かできることがあれば」
だが、最後の最後で感情が勝った。
「うん、そうこなくっちゃ」
「……解りました。仕方ありませんね。では、引き続きお付き合い願いましょう」
にぃっと犬歯を見せるリアルと、溜息をこぼす沙耶。対照的な反応だった。
「じゃあ、早速聞きたいことがあるんだけど」
「それなのですが」
沙耶が上座のデスクに目を向ける。
この時間、座っていなければならないはずの生徒会長の姿がない。
「もうすぐ会長が戻られると思うので、少しお待ち頂いてよろしいですか?」
「別に構わないわよ。しっかし、噂通りね。ホントに遊び歩いてるんだ」
「お恥ずかしい話ですが、まだ会長としての自覚が不十分なのです」
「まあ、それも信頼できる副会長がいるからなんだと思うけど」
「良くそう言われますが、私がいなくても会長なら……」
智美にソファー、リアルの隣に座るように促がしながら、沙耶が言い慣れた答えを返す。
「謙遜しなくていいのよ。こんな独断が許されるんだから、どれほど信頼があるか解るわよ」
リアルの一言に沙耶の動きが止まる。
冷静で落ち着いた表情に、微かな動揺が見えた。
「アタシを呼んだのは、副会長の独断でしょ。会長様には、ただの悪戯だから大騒ぎすべきじゃないって言われたんじゃない?」
「どうして、そう思いますか?」
「だって、客人を放って遊びに行くわけないでしょ」
「なるほど、それは当然と言えば当然ですね」
「それに……」
ふと言葉を止めた。
「それに、なんです?」
「それにしても、ここはお茶の一杯も出ないのねって思ってさ」
はぐらかされた話題を戻そうと、沙耶が口を開きかけた時。
コンコンとドアが叩かれた。
「会長をお連れしました」
続いてそんな報告が飛び込んできた。




