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十月十一日(金) -5-

「綺麗だから、じゃないかな」

 

 だから、最初に浮かんだ物を返した。

 

 それを聞いたリアルが、ポカンと間の抜けた表情になる。

 

「ほら、本棚とかに色とりどりの背表紙が並んでると、凄く綺麗に見えるから」

「ふうん、なるほどね」

 

 智美の説明に頷いて、にぃっと八重歯を見せた。

 

「アンタって変わってるわね」

「そんなことないよ」

 

 ぷっと頬を膨らませて抗議する。

 

「褒めてあげたのに。まあ、いいわ。力を貸してあげる」

「へ?」

「だから、アンタの依頼を受けてあげるって言ってるの」

「でもお金が」

「お金? そんなのいらないわ」

「だって、さっき五万円だって」

「あぁ、あれは嘘」

 

 あっさり言い切った。

 

「ちょっと試させてもらっただけよ」

「え? どういう意味?」

「アカデミーのお金だから、どんなに出しても腹は痛まない。しかも、それで組織に対する自分の評価が上がるなら。とか考えているんじゃないかって思ってさ」

「そんなこと、誰も考えないよ」

「世の中には案外多いのよ。そう考える人って」

「そう、かな」

「ま、アタシはそういう類の人間は大嫌い。そんな相手にアタシの貴重な時間を割いてあげる気なんて起きないわ」

 

 大袈裟に肩をすくめる。

 

「駆け引きしてるのかなとも思ったけどさ。アンタってそんなに頭が回らないみたいだしね」

「そんなに頭悪くないよ。クラスでも成績は良い方なんだから」

 

 バカにされた言い方に、智美の頬が先ほど以上に膨らむ。

 確かに失敗ばかりしているし、運動の成績は酷いものだが、学科は優秀な方だ。

 クラスでも上位二割には入っている。唯一の長所なのだ。

 

「もう、褒めてあげてるのに」

「全然褒めてないよ。バカにされてるもん」

「それはアンタの尺度で、でしょ。アタシとしては褒めてるのよ」

 

 意味不明の理屈。しかし、それを譲る気はないらしい。

 結局、反論を溜息に置き換えた。

 

「さ、行こっか」

「でも、ホントにいいのかな。その、お金とか」

「気にする必要ないわよ。別にお金に困ってないから」

 

 そっけない一言だったが智美にとっては嬉しかった。

 

 感謝を口にしようとしたところで。

 

「礼は依頼を終わらせてからね。それよりもさ、アタシのことはリアルって呼んでくれる? 敬称略で」

「そんな馴れ馴れしいよ」

「本人がリクエストしてるんだから。相手の希望は素直に聞くべきだと思わない?」

「じゃあ、ちょっと抵抗あるけど、リアルって呼ぶね」

「それがしっくりくるわ。で、会長室に向かえばいいの?」

「そうだけど、予定とかは大丈夫?」

「イベントは、早く楽しまないと勿体無いでしょ」

 

 リアルはそう言って、にぃっと笑みを見せた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 生徒会長室。智美のノックにドアが開いた。

 

「良く来て下さいました。詩方さん」

 

 二人を迎えたのは、銀の鷲の腕章を付けた眼鏡の少女、河原崎沙耶だった。

 

「お噂は耳にしています。さあ、どうぞこちらに」

 

 部屋の隅に置かれたミニテーブルに案内されながら、リアルはぐるりと周囲を見回す。

 

 広さは約十畳。薄い夕日に淡く照らされた空間にあるのは、収納ケースと本棚。それと一番奥のデスクセット。

 イメージしていたよりは、ずっと地味だなと思った。

 

「八房さん、お疲れ様でした。私の期待に応えてくれると信じていましたよ」

 

 物珍しげに室内を眺めている智美に柔らかな笑みを見せた。

 

「あ、いえ、そんな、その、お役に立てて……」

 

 もごもごと答える智美の肩に優しく手を置く。

 

「これからも生徒会の為に力を貸してください」

「はい。私なんて何もできないですけど」

「では、後は私が話しますので、下がってくださって結構です」

 


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