十月十一日(金) -4-
「そんなに深く考えなくてもいいんじゃない? 生徒会からの依頼なら、アカデミーの予算から出るんだし」
「そう、だけど」
リアルの言いたい事は解る。
智美自身が払うわけではないのだ。
アカデミーの予算は、本土から送られてくる。
金額的には小規模な都市なみ。
その使用についても生徒達、正しくは生徒会に一任されている。
「解ったよ」
「まあ、アタシに任せてくれれば……。って、どうしたの?」
いきなり腰を上げた智美に、リアルが目を丸くする。
「やっぱり、そんなお金は払えないよ」
「どうして? アカデミーのお金なのよ。五万なんて塵にもならないレベルなのよ」
「アカデミーのお金はみんなのお金だから。一円でも無駄遣いはできないよ」
膨大な予算があるからと言って、じゃぶじゃぶ自由に使う事はできない。
施設の維持費やクラブの備品にだって費用は掛かる。
それに比べて収入を得る手段は少ない。
アカデミーに本土の人間の立ち入りが許されるのは、入学式と卒業式。
それに今月二十五日の金曜から始まる神有祭だけだ。
各クラブは、このチャンスに様々な模擬店を開き収入を得る。
その利益の十五パーセントを生徒会が税として徴収するのだ。
しかし、ここ数年は本土からの来客が激減し、財政状況は苦しい。
年度末に生徒達の寄付を募り、辛うじてやり繰りしている。
これ以上の赤字になれば、本土からの追加援助を受けざるを得ない。
それはアカデミー自治の破綻を意味し責任問題となる。
生徒会役員の退学、本土へ強制帰還。一般生徒達にも、何らかのペナルティが課せられるのは間違いない。
その危機を回避すべく、生徒会長の彩音や副会長の沙耶が日々頭を悩ませているのだ。
末席中の末席だが、生徒会に参加している智美は、彼女達の量り知れない苦労を知っている。
「ふうん、でもいいの?」
落ち着きを取り戻したリアルが挑戦的な目を向けた。
そんな視線に智美は、つい身構えてしまう。
「私を連れてくるように言われたんでしょ。アンタならできるって期待してくれた人がいるのよね。いいの? その人の信頼を裏切ることになるのよ」
「そ、それは……」
「きっと、この程度の出費なら良しとしてくれるわよ」
「うん、多分そうだと思う」
「じゃあ、何も問題ないでしょ」
「でも、ダメなんだよ。すごく失望させちゃうと思うけど、やっぱり無駄使いはできないよ」
唖然とするリアルに力なく笑い、
「それに、私は誰からも期待されてない人間だから、全然大丈夫なんだ」
と継ぎ足した。
「じゃあ、私はこれで。あ、それと廊下ではありがと、すっごく怖かったから」
小さく頭を下げる。
「ちょっと、待ちなさいよ」
「気にしないで。リアルさんが悪いわけじゃないから」
「あのね、悪いとか悪くないとかじゃないでしょ。まったく」
立ち上がり、本棚の前に移動した。
智美をよそに、几帳面に並んでいる背表紙を眺める。
「ねえ、世の中には、なんでこんなに本があると思う?」
唐突な質問に智美が首を捻る。
「事典や宗教書、学術書はもちろん。漫画や小説とか、色んな本があるわよね。しかも、毎日増えていくわけじゃない。一生分の時間を費やしても読めない量の本を、人間は作り続けてる。ね、なんでだと思う?」
「なんでって聞かれても」
「正解を求めてるんじゃないの。アンタの意見が聞きたいの」
「それは、その」
懸命に思考を巡らせる。
しかし、良い答えが見つかるはずもない。




