十月二十三日(水) -9-
「貴方は本当に意地が悪い。好きになれそうにないタイプです」
そう残すと踵を返し、キャンドルが乗ったテーブルの前に戻った。
ふっと蝋燭に息を吹きかける。
四つ目の火が消えた。
「しかし、米川が犯人でないすると、一体誰が……」
室内の温度で、額に浮いた汗を拭いながら、真樹が呟いた。
「大丈夫よ。アタシには見えてるわ。この事件の真実が、ね」
リアルが全員の顔をゆったりと見回した。
※ ※ ※
「今夜の事件はとても特殊よ。犯人の目的は『七人目の来訪者』を続けることにある」
「リアルちゃん。怪談話を続けてどうしようっての?」
「もちろん、来訪者をこちら側に呼び出すのよ」
「荒唐無稽な話ですね。ただの怪談にそれほど意味があるとは思えませんが」
「そう、アカデミーに伝わるただの怪談話。でも、こんな風に考えてみて。本当に来訪者と呼ばれる存在が、どこかに実在するとしたら? そもそも二十二年前に流行った『六人目の来訪者』が、それを呼び出そうとした話だとしたら?」
リアルの問いに答えられる者はいなかった。
彼女の指す仮定が、余りに突拍子過ぎてピンと来ないというのが、正直なところだった。
「あれこれ説明するより、まずは話を進めた方が解りやすいかな」
口元に手をあてて、これからの展開を考える。
「よし、今夜の事件の犯人、八人目の来訪者が誰かを明確にするところから始めよっか」
全員の顔を見渡し、異論のない事を確認する。
「繰り返しになるけど、今夜の事件について最も異質なのは目的。言い代えれば、動機から犯人を割り出すことができないのよね。だから、ここにいる誰もが来訪者である可能性がある」
リアルの言葉に全員が互いを見やる。
誰の顔にも疑惑と緊張の色が浮かんでいた。
「はいはい、そんな怖い目しないの。無闇に人を疑うのは良くないわよ。今から来訪者じゃない人間を除外していくから。まず確実に外れるのは、犯行時刻に明確なアリバイがある人間ね」
「ちょっと待ってください」
沙耶が割り込んできた。
「誰かに指示をして犯行を行わせた。つまり実行犯が別にいるという可能性を考慮しなくていいのですか?」
「副会長の指摘は鋭いわね。でも、今回についてはないと断言させてもらうわ。来訪者はわざわざ米川純理を呼び出した。もし、実行犯がいるなら、その必要はないでしょ」
「なるほど、実行犯をスケープゴートにするのですね。確かに仰る通りです」
リアルの説明に沙耶が納得する。
「犯行時刻、アタシと生徒会長は会長室にいたわ。互いのアリバイは証明できるわね」
「うん。ちょっと人に話せない話で盛り上がってたかな」
にへへと笑う彩音。
七人目の来訪者が自分だとは感じさせない、後ろ暗さのない表情だった。
「私が会長室に入った時に、二人は一緒でした。この点については間違いありません」
「これで容疑者から二人が消えた。次は、風紀委員長に確認を頼んでおいた件なんだけど」
「八房のことだな」
「え、私?」
いきなりの展開に驚いたのだろう。
声が裏返る。
「ボタンの発信機で確認した。犯行時刻にお前がどこをいたか。言うまでもないが、こいつは白だ。ずっと会長室の前にいた」
「良かった。ちょっとびっくりしたよ」
胸を撫で下ろすハチの仕草に、漂っていた緊張感が微かに緩む。
「次は、米川純理。アンタには明確なアリバイがない」
「それは認めます。ですが」
「解ってるわ。アンタが桝村美佳子を傷つけるようなマネはしない。となると、残りは二人ね」
沙耶と真樹を交互に見比べる。
片やアカデミーの副会長、片やアカデミー風紀委員長。
どちらも来訪者とは考えられない立場にある。




