十月二十三日(水) -8-
「少し話が逸れてしまいましたね。アカデミーに入っても、二人の関係は変わりませんでした。わたくしにとって、心を許せる唯一の存在でした」
「それは桝村美佳子にとっても、同じだったのね。だから、アンタに協力してくれるよう頼んだ」
「いえ、美佳子は話してくれませんでした。わたくしを巻き込みたくなかったのでしょう。ですから、わたくしの方から強引に協力を申し出たのです。美佳子は嘘をつくのが下手で、ちょっとつつくと直ぐにボロが出る人間ですから」
「そうね。あの子は犯罪者に向かない人間だもの」
「うふふ。そうですね。美佳子は来訪者に協力すれば、新聞部の財政も危機を脱することができると信じていました。オカルト関連の大事件が起きれば、それを中心に扱う新聞の発行部数が伸びるのは間違いないと」
「確かに桝村は第四新聞部の部長だが、部の存続の為にそこまでするものか?」
真樹の疑問はもっともだった。
「美佳子の夢なのです。アカデミーを卒業して、オカルト雑誌の記者になるのが」
「随分と個性的な夢ね。でも、悪くないと思うわよ」
「ありがとうございます。アカデミーでの成果は将来に大きく影響します。新聞部の部長として成功を収めれば、美佳子の夢に大きなアドバンテージになるはずです。だから」
「だから、アンタはできる限りのことをした。好きでもないホラー漫画を描き、苦手なトークショーまでした」
「え、どういう意味?」
彩音が疑問の声を上げた。
「米川作品の魅力は登場キャラクターの心理描写にあるの。それに残酷描写が極端に少ないのよね」
「わたくしは恋愛漫画が好きなのです。それに大勢の前で話すのは、まだ抵抗があるんです」
アカデミーで最も売れているホラー漫画家の意外な告白に驚く。
「全てはアカデミーに、オカルトブームを起こす為だったのよね?」
「はい。オカルトブームになれば、新聞部の売上も安定すると思いましたから。でも、それについては、わたくしだけの力ではありません。漫画制作部も看板作家を欲しがっていましたから、わたくしの作品を宣伝したり、噂が広がるよう協力してくださいました」
「でも、現実は甘くなかった。オカルトブームはきたけど、新聞部の売上は下降線を辿る一方。そこでアンタはより一層の手助けをした。時には桝村美佳子に代わって新聞の原稿も書いたし、トークショーのチケットを横流しして資金援助までした」
「どうして、そのことを?」
「特集号が良く書けてたの。いつもと余りに違うクオリティだった。だから、新聞部以外の誰かが書いたってのが解ったわ。チケットについては、ハチにあげようとしたでしょ。つまりアンタがキープしてる分があるのよね。でも、いつも満席って話だし。となると、転売してるんだろうなって」
「それだけのヒントでここまで辿り着くとは、流石は六寮の少女。わたくしが勝てる相手ではなかったようです」
「だがな、米川。友人の為にと言えば聞こえは良いが、著しく風紀を乱す行為だぞ」
「美佳子の夢に比べれば、アカデミーの風紀なんて、クズほどの価値もありません」
きっぱりと断言する純理に、流石の真樹も言葉を失った。
「ま、人の価値観はそれぞれってことよ、風紀委員長。でも、解ったでしょ。この米川純理が桝村美佳子を傷つけるなんて有り得ない」
「それは、そうだが」
納得せざるを得ない。
「米川純理、正直に話してくれたご褒美をあげるわ。桝村美佳子の怪我は安心していいわよ。頭を殴られたショックで、意識はまだ戻らないけど。命に関わるレベルじゃない」
「そうですか。それは良かったです」
ふうっと息をついた。
心なしか顔から険しさが抜けた。
「アンタ、ずっと気にしてたんでしょ」
「解っていて、美佳子の容態には触れなかったのですね」
「苛立てば、冷静な判断は曇る。アンタを引っ掛けるには、このくらいはしないとね。それにアタシもハチの件では随分と心配させられたのよ。ささやかな復讐ってやつよ」




