十月二十三日(水) -6-
明らかに狼狽した様子のリアルに、更なる追い討ちを掛ける。
「それにわたくしはトーン作業を部室ですることにしています。自室で原稿を書いていたわたくしに、トーンが付着しているはずがありません。なんなら部屋を確認して頂いてもらっても構いませんよ。トーンの破片があるかどうか」
「事件後に掃除したとも考えられるわ」
「それは一理ありますね。では、これではどうでしょう。そのトーンはわたくしが使ったことのない種類です」
「え?」
「リアルさんは御存知ないと思いますが、トーンには様々な種類があるのです。過去の作品を全て調べてもらっても構いませんが、その種類の物は使ったことがありません。何故、使ったことのないトーンが窓を割ったこの石に付着していたのでしょう」
「まさか、詩方」
真樹の声は震えていた。
有り得ない可能性が、明確な形となっていく。
それに大きな衝撃を受けたのは真樹だけでなく、この場にいる全員だった。
「米川純理、アンタの言う通り。それはアタシが付けたのよ」
がっくりと肩を落としたリアルが告げる。
「なんと恐ろしいことでしょう。有りもしない証拠をでっち上げ、無実の者を犯罪者に仕立て上げようとするなんて。それに風紀委員や生徒会長が加担するなんて。こんなことが許されると思っているのですか?」
雄弁になった純理が、その矛先を周囲に向けた。
真樹だけではなく、彩音や沙耶ですら返す言葉が見つからず、口篭ってしまう。
この重く苦しく立ち込める沈黙を破ったのは、
「アンタ、バカじゃないの。随分と調子に乗っちゃってさ」
リアルだった。
発言を理解する一瞬の間を置いて、純理が眉を吊り上げる。
「なんです! 貴方、自分のやったことが解ってるのですか!」
「ったくうるさいわね。キャンキャン吠える犬は嫌われるわよ」
「な、なんですって! 証拠を捏造し、わたくしを陥れようとしたくせに!」
限度を越えた怒りに、頬を真っ赤にして怒鳴った。
「証拠? 捏造? なんの話か解んないんだけど?」
「とぼけるつもりですの! トーンですわ! 自分で貼り付けたトーンを証拠だと言って!」
「はぁ? こんな石にトーンが張り付いてからって、なんの証拠になるっての?」
「ど、どういう意味ですか?」
「証拠なんて最初からないのよ」
にぃっと犬歯を覗かせる。意地悪さを多分に含んだ表情。
それを見た純理の顔から、さあっと血の気が引いた。
「だから、アンタに手伝ってもらったの」
リアルが会議テーブルの前まで進み、静かに石を手にした。
「じゃあ、米川純理、簡単な質問をさせてもらうわね」
純理が力なく首を左右に振る。
既に先ほどの勢いはすっかり消え失せていた。
「アンタはこの石で窓を割ったって決め付けてたわね。不思議じゃない? なんでアンタは、犯人が窓を石で割ったことを知ってるんだろ?」
純理が力なくうな垂れた。それはあまりに明確な反応だった。
「アンタはとても頭の回転が早いわね。常に次の展開を予測して行動している。でも、それが仇となっちゃったのよ」
「そのトーンを選んだのは」
「当然、アンタが使ったことのない物を探したの。アンタのことだから、きっと鬼の首を取ったように騒ぐんだろうって思ってさ。いやいや、苦労したわよ。違いが解り難いんだもん」
「あの状況で確認しろと言われたら、誰でもこの石のことだと思うものです」
純理が弱々しい声を出した。
「そう、それが正解の反論ね」
「もし、わたくしがそう答えていたら」
「そこからアンタを追い詰めるカードはあったわよ。折角だし、やってみる?」




