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十月二十三日(水) -5-

「ハチへの脅しは失敗した。桝村美佳子がヘマをしたのか、他の要因があったのかは解らないけど、正体を見られそうになったの。焦ったアンタは、ハチが気絶するまで痛めつけた」

「素晴らしい想像力です。探偵ごっこより、創作活動をされた方が良いのではないですか?」

「ありがと。褒め言葉として受け取っておくわ。さて、ハチを気絶させたアンタは、ハチを置いて立ち去ろうとした。でも、共犯者の桝村美佳子は違った。アンタみたいな冷酷さを持ち合わせてなかったのよ」

 

 痛烈な指摘にも、純理は穏やかな笑みを崩さない。

 

「アンタは困った。のんびりしていると誰かに見つかる可能性もある。そこで思い付いたの。寮の中にいるアタシを使おうって。問題はどうやってアタシを誘い出すかだけど」

「それで窓ガラスか! ガラスが割られたのは、そういうわけだったのか!」

 

 真樹が声を上げた。

 謎が線となって繋がり始めた事に、興奮しているのが解る。

 

「正解よ、風紀委員長。実に秀逸なアイデアね。咄嗟に思いついたのは褒めてあげる。冗談抜きで、アンタは犯罪者の才能に恵まれているわ」

「それで終わりですか?」

 

 純理が大きく息をついた。

 

「全て貴方の勝手な妄想ですよね。明確な証拠も……」

「残念ね。証拠ならちゃんとあるの」

 

 リアルが遮った。

 

「あるのよ。アンタが犯人だという、これ以上ないくらいの証拠が」

「もう一度、確認させて頂きますが、確固たる証拠があると?」

「折角なんだし自分の目で確かめてみれば?」

「ふふ。貴方の考えていることは、大体解っているのですけど。ここまで来たら最後まで茶番に付き合うのも悪くないでしょう」

 

 純理が会議テーブルまで移動する。

 

「副会長、火を消してもらえる」

「あ、はい」

 

 展開に見入っていた沙耶が我に返った。ふっと蝋燭に息を吹きかける。

 三つ目の火が消えた。

 

 純理が石を掴む。

 裏返して、直ぐにそれを見つけた。

 口元が、嘲りを含んだ笑みに歪む。

 

「どう? 証拠があったでしょ?」

「これのことですね」

 

 それを左手で摘み取ると、リアルの方に向き直った。

 

「それが何か解るわよね」

「ええ、もちろん、スクリーントーンの切れ端です」

 

 左の指先についていたのは、数ミリ四方の薄いフィルムだった。

 

「スクリーントーン?」

 

 聞きなれない単語を彩音がリピートしながら、隣の沙耶を見る。

 が、博識な副会長も解らず、首を振った。

 

「スクリーントーンってのはね。漫画で色とかを表現する為のものよ。裏に粘着剤が付いてて、原稿用紙に貼り付けられるようになっているの」

「それは動かぬ証拠だな。そんな物を使うのは、漫画を描いている連中くらいだ」

「アンタも以前言ってた通り、小さな破片はどこにでも付いてしまう。服に付いていたのが、偶然付着したのね」

「ふふ、ふふふ」

 

 純理の肩が小刻みに揺れる。

 

「ふふふ、ふはは、あははは」

 

 懸命に堪えていた笑いが、ついにこぼれた。

 

 普段からは想像できない笑い方に、誰もが訝しげな表情に変わる。

 

「あはは、これは愉快ですよ。愉快過ぎます。以前、部室に尋ねて来られた時から、なんとなく想定していたのですが、まかさここまでシンプルにくるとは。あはは」

 

 ひとしきり笑った後、大きく息を吐いた。

 

「いえ、失礼しました。随分と笑わせて頂きましたよ。残念ですが、これは貴方が貼り付けた物ですよね。詩方真実さん」

 

 純理の口調は明らかに、リアルの話し方を意識した物だ。

 

「どういう意味?」

 

 質問を受ける形になったリアルの声は、トーンダウンしてしまう。

 

「スクリーントーンは漫画を仕上げる際に使うのです。先週時点のわたくしの原稿は、まだ下書きの状態でした。つまりスクリーントーンを使う段ではなかったのです」

「そんな!」

 

 


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